ひょうたんから駒

殺陣こそ 時代劇のハイライト

 

西部劇の魅力がガン・ファイトであるように、時代劇のハイライトと言えば、殺陣(たて)ということになる。

私は、『木枯し紋次郎』で知られるようになったが、同時代の知人やファンと会話すると、必ず殺陣の話題が出てくる。

あのアクションは、それまでの時 代劇ではなかった動きであり、新鮮だったと評価されてきた。

実の話をすれば、あれは最初から意図してでき上がったものではなかった。私は当時、米国留学から帰ったばかりの無名の新劇俳優で、伝統的な時代劇の素養など、ひとかけらもなかった。

主役に選ばれたのも、巨匠・市川崑監督が、今までにない新型時代劇を作るから、場慣れしていない新人を使いたいと主張したからである。

さて、チャンバラの振り付けをするのは殺陣師である。昔の映画会社には、斬られ役専門の社員俳優が勢いた。斬られ役には格付けがあり、 最初に斬られる人が一番上で、将来 殺陣師に昇格する位置だった。年季と技術と、主演スターに気に入られることが条件となる。

 

未知の殺陣を生んだ 市川監督と美山殺陣師
 

美山晋八師(故人)は、京都大映撮影所で、長谷川一夫さんや市川雷蔵さんの斬られ役一番手を、長い間 務めてきた。〈紋次郎〉はここでクランク・インし、美山師が殺陣師としてデビューすることになった。伝統的な時代劇文化に、首までつかっているような正統派である。

「こりゃ、アカンわ!」

私に振り付けをした美山師は、初日から天を仰いだ。私の動きが、 まったくサマにならなかったのだ。 ここで、市川監督が助け舟を出してくれた。
「百姓出身の渡世人が、侍みたいな剣さばきはできんだろう。無茶苦茶な喧嘩殺法にしたらどうだね」

しばらく考え込んでいた美山師が、顔を上げて私の目を覗き込んだ。

「敦ちゃん、走りはどうだ?」
「速い方です」
「よっしゃ!」と、美山師は手を 打った。

とにかく、野原や川を走り、森に逃げ込めと言う。そして、追手がバラけたところで反転し、逆襲しろ。 どこでつまずこうが転ぼうが、そのまま刀を振り廻せ。手持ちカメラを、 ドキュメンタリーを撮るように廻し続けた。

結果、サッカーみたいなスピードと迫力にみちた映像となり、周囲の度肝を抜いた。

古い衣をサラリと脱ぎ捨て、未知の殺陣に賭けた美山師の度胸はさすがだった。市川監督も、『東京オリンピック』の時と同じ気分で、撮影を楽しんでいたに違いない。

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。


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