めぐる季節に

時ならぬ暑さ、寒さ、十一月に雪 が降ったりと、気候不順の日々が続 く。もう今がいつなのか、季節はい つなのか、四季のめぐりさえよくわ からなくなってきた。

 それでも暦は逆戻りすることはな く、確実に日を重ねていき、あっと いう間に年末になる。月が二桁に なったころからあせりはじめるが、 そこからは特に速い。

一年が長かった子供のころ 大人の月日は速く過ぎる

 

 

子供のころは、一年が長かった。 早く大人になりたいなどと思った が、あれは自分の身体の内側が全速 力で成長しているために、外側を流 れる時間が遅く感じられるのだそうだ。それを知ったときは、すべての 謎が解けた気がして爽快だったが、 ということは。今感じている、この 月日の過ぎる速さは、自分の内側の 成長が遅くなって、さらには退化し ていっているせいなのだろうか。そ う思うと、なんともうら寂しい気分になる。

先日、近所を歩いていたら、こん にちは、と赤ちゃんを抱いた若いお 母さんに挨拶された。誰だろうと思ったら、近所のお店のお嬢さん だった。

 彼女のことは、生まれたときから 知っている。もっと言うなら、彼女 のお母さんがお嫁に来たときから 知っている。赤ちゃんだった女の子 がすくすくと成長し、きれいなお嬢 さんになったところまではフォロ ウしていたのだが、もうお母さんに なったとは!

つい「いつの間に!」 と声を上げてしまった。

 

人の営みはめぐり 繰り返されてゆく
 

お嬢さんと別れて歩きながら、 「これは自分も年をとるはずだ」と、 内心でつぶやいて吹きだした。この せりふは聞き覚えがある。こうして みると、声を上げたところから。

私も、小さい頃に可愛がっていた だいた方に久しぶりにお会いして、 「え、もうこんなに大きいの?」と驚 かれたり、「大人になったねえ」と感慨深そうに言われたことがあっ た。そのあとには、きまって「自分 も年をとるはずだ」と続いたもの だ。

こうして繰り返す、大人たちがし てきたことを、今、私が大人になっ て。季節はなんだかわからなくなっ てきたけれど、こうして人の営みは めぐり、繰り返されてゆく。また人 生の季節というのは確かにあって、 赤ちゃんが生まれ、育っていくのは まさしく春だろう。
 
そういえば、大きくなったね、 大人になったねと言われたとき、 ちょっと得意な気分になったもの だったけれど、今にして思うと、あ れは大人が私の成長に、自分の齢 よわい を 認めた瞬間だったのかもしれない。

ありよし たまお

 作家。東京生まれ。 早稲田大学哲学科、 東京大学美学藝術学 科卒業。ニューヨー ク大学大学院演劇 学科修了。1990年、 母・佐和子との日々を 綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。 『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さん の恋』『風の牧場』『恋するフェルメール 37 作品への旅』『カムフラージュ』『美しき一日 の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人の こと』など多数の著書がある。


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