春といえば

近所の桜こそ花見の名所なり

 

春になると、多くの雑誌が特集を組む桜。表紙には桜がいっぱい。書店に行くと、雑誌の棚は桜があふれて春爛漫だ。

花が咲いてから写真を撮るのでは、とてもではないが雑誌の発売に間に合わない。こういった季節ものは、一年前から準備する。あたりまえのことのようだけれど、こうして一年前の景色が今年も変わらずあること、それは有り難いことなのだと、しみじみ思う。ここ行ってみたいなと思い、そして行ったらその景色があることは素晴らしいことなのだ。

日本三大桜、五大桜、桜の名所一〇〇選……、心をさそう桜の景色。行ってみたいところがたくさんあるが、お花見は近所に出かけて行くのもよいものである。いわゆる名所に限らず、家のそばの学校や公園、街路にも桜が美しいところがあるだろう。いな、近所の桜こそ名所なのだ。私の地元にも、川沿いに桜が咲く、素敵なところがある。

花も水をもとめるようで、川沿いに植えられた桜という桜が、川面へと枝を伸ばす。川はゆっくりと蛇行し、川に沿って歩いてゆくと、あとからあとから水をもとめるフラミンゴのような桜が姿を現す。

ぱっと咲き、ぱっと潔く散る桜ゆえ、お花見の計画はたてにくいが、地元なら、今日行こう、この週末に行こうと、桜のご機嫌に合わせてフットワークよく出かけられる。
ちょうど見頃の週末は人がたくさん集まって、川沿いの公園には所狭しとシートが敷かれ、満開の桜の下は、笑顔の花も満開だ。

 

散った桜もまた風情。春の名残を楽しむ
 

 

橋の上は絶景スポット。桜を背景に、自分たちの写真を撮り合う人たちも多い。中には実家の親御さんたちをさそって出かけてきたのかなと思われる家族もいる。こんな光景に毎年出会えることもまた、素敵なことだ。

お花見をしながら歩いて行って橋に至ると、よくカメラを渡され、シャッターを押してくださいと頼まれる。

チーズ。皆の最高の笑顔にピントが合って、背景は桜というより桜色。

 ……春の号というと、桜のことを書きたくなる。写真と同様、文章を書くのもその季節より少し前のことで、まだ寒いうちから、心の中は桜が満開だ。ただ、桜はそれこそぱっと咲いてぱっと散るから、この号が出るころ、花がどんな按配かわからない。

まだ咲いていないかも。あるいはもう散ってしまったかも。これから咲くならまだよいが、散っていたら無粋である。でも――。

散った桜が風に舞う様、道の上でさらさらと風に掃かれる様もよいものだ。川に浮かべば花筏。葉桜もまた風情。散ったあとも、今しばらくは楽しませてくれる桜である。

ありよし たまお

作家。東京生まれ。早稲田大学哲学科、東京大学美学藝術学科卒業。ニューヨーク大学大学院演劇学科修了。1990 年、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さんの恋』『風の牧場』『恋するフェルメール 37作品への旅』『カムフラージュ』『美しき一日の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人のこと』など多数の著書がある。


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