③遊びから人間の温もりが消えていく 

科学の発達は両刃の剣である

ヨーロッパとアメリカでのミツバチの謎の大量死が世界を驚かせた。農産物に深刻な被害が及ぶとの報告にもびっくりさせられた。原因は今のところ定(さだ)かではないが、どうやら人間が自然の摂理を曲げて科学の力でミツバチの行動を効率的に高めようとしたことにあるようだ。かつて狂牛病が世界を震撼させたとき、牛を正しく飼えばこのような病気が発生することはなかった、という科学者の言葉が忘れられない。つまり科学の発達は両刃の剣を持っていることを意味している。

人間が科学の発達の恩恵に浴していることは言うまでもないが、その科学の発達が一方で人間生活に著しい弊害をもたらしつつあることを決して忘れてはならない。

先だって新大阪から新幹線で東京へと向かった。途中、京都から若き女性二人が通路を隔てた隣の席に坐った。ところが明らかに二人連れの旅なのに東京駅に着く直前まで一言も言葉を交わさなかった。その間、二人はただ黙々と並んで携帯電話を手にメールをしていたのだ。

 

携帯の端末化となりつつある人間たち

 

たった一つの例を挙げたのだが、この二人連れの旅に象徴されるように、今、友だち同士、親子、家族の間の会話がメールにどんどん吸収されて行きつつあると思えてならない。言葉を替えれば、人間が携帯の端末化しつつあることになる。科学の発達により人間本来のあるべき姿と幸せが阻害されつつあるということだ。科学の進歩に連れて人間の孤立化が進む。なんと寂しく悲しいことか。

家族が集まっての、友だちが集まっての、隣近所が寄り合っての遊びが消えて久しい。百人一首やカルタ遊び、源平に分かれての札の取り合い合戦も今や昔の想い出となった。肩や手のふれあいもなくなった。子どもたちは黙々と孤独な姿でゲーム機と向かい合っている。共同で楽しく競い合うマナーも皆で遊ぶことから生まれる熱気も協調精神も消えた。遊びから人間の温かみが消えた結果、勝つことにみに執着する野暮天な人間ばかりが増えていく。嗚呼。なんと智恵の無いことか。

こだま きよし

俳優(1934~2011) 東京都生まれ。58年学習院大学文学部ドイツ文学科卒業。同年6月、東宝映画と俳優専属契約を結ぶ。67年にフリーとなる。映画『別れて生きるときも』『戦場に流れる歌』『HERO』など、テレドラマ「ありがとう」「花は花よめ」「肝っ玉かあさん」「白い巨塔」「黄金の日々」「沿線地図」「獅子の時代」「想い出づくり」「親と子の誤算」「山河燃ゆ」「武田信玄」「HERO」「美女か野獣か」「ファイト」「トップキャスター」「こんにちは、母さん」「鹿男あをによし」など多数の出演作がある。ドラマ以外でもテレビ「パネルクイズアタック25」「週刊ブックレビュー」、「びっくり法律旅行社」、ラジオ「テレフォン人生相談」など。著書に『寝ても覚めても本の虫』『負けるのは美しく』『児玉清の「あの作家に会いたい」一人と作品をめぐる25の対話』などがある。


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