④日本人が日本人でなくなる日が

文化のアメリカ化を象徴する超大型安売店の大量出現

 

イギリスの独自の気候が変ってしまったら、イギリスはイギリスでなくなり、生まれてくる子どもたちは全部外国人になってしまう。とは、一八五八年のイギリスのコミック年鑑にあった言葉だが、笑った瞬間に鋭く僕の胸を突くものがあった。

一九四五年の敗戦を期に日本の空模様がガラリと変り、アメリカ型の文化の気候が国中を覇(おお)うこととなった。従って日本の独自の文化が次第次第にアメリカ化していったことは今更書くまでもないことだが、六十四年の時を経て、最近とくにその傾向が極まったことを感じるのは、超大型安売店の大量出現だ。地方などへ出かけると、道路沿いに突如現われるアメリカのモールを思わせる巨大マーケット街に驚かされることが多い。商店街がシャッター街に変わってしまう原因でもあるが、こうした巨大マーケットを見るたびに、これが果たして日本という国に合っているものか?と首を傾(かし)げてしまうのは僕だけであろうか。

時恰(ときあたか)も、安さ爆発カメラの、をキャッチ・コピーに一時代を築いた大型安売店が、この春に看板を下すこととなった。安売りの元祖ともいえる店が閉店へと至った道は、なにやら日本の行く末を暗示しているように思えてならない。

 

日本人の智恵が生きていたかつての日本の商い

 

大量に物を売る、だから値段が安くなる。この所謂アメリカ方式が、言葉を替えればアメリカ型気候が日本の風土に馴染めないと考えるからだ。安いところへ消費者は殺到するため、売る側の安売り競争はどんどん激化していく。必然的に利益が削られるために生き残りをかけて出店数を増やすこととなる。しかしマルチ商法の限界のように拡大し続けることに限りがある。行きつく先は悲惨な結果となる。つまり待っているのは地獄なのだ。

安売りはデフレを加速し、人心をも荒廃させる。適正の儲けがあってこそ、巡り(めぐ)り巡(めぐ)って自分の懐もうるおうことにつながることを知るべきだ。

かつての日本には問屋制度を含め日本人の智恵が商いに生きていた。安売りが突っ走る社会は荒(すさ)み、人心からうるおいが消える。ゆとりを失った人間から遊び心は生まれない。なんとも味気無い殺伐とした社会、誰もがやがて日本人でなくなる日が、もう、そこに近づいている。日本固有の気候を取り戻さなければ……。

こだま きよし

俳優(1934~2011) 東京都生まれ。58年学習院大学文学部ドイツ文学科卒業。同年6月、東宝映画と俳優専属契約を結ぶ。67年にフリーとなる。映画『別れて生きるときも』『戦場に流れる歌』『HERO』など、テレドラマ「ありがとう」「花は花よめ」「肝っ玉かあさん」「白い巨塔」「黄金の日々」「沿線地図」「獅子の時代」「想い出づくり」「親と子の誤算」「山河燃ゆ」「武田信玄」「HERO」「美女か野獣か」「ファイト」「トップキャスター」「こんにちは、母さん」「鹿男あをによし」など多数の出演作がある。ドラマ以外でもテレビ「パネルクイズアタック25」「週刊ブックレビュー」、「びっくり法律旅行社」、ラジオ「テレフォン人生相談」など。著書に『寝ても覚めても本の虫』『負けるのは美しく』『児玉清の「あの作家に会いたい」一人と作品をめぐる25の対話』などがある。


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