赤に始まる

初夏の緑に交じる 季節外れの紅葉

まだ夏が、あれほどまでに暑くなるとは知らなかった初夏の頃、心地よい風に吹かれ、根津美術館の庭園に燕子花を見に行った。館内は尾形光琳の「燕子花図屏風」が展示され、実物と絵を見比べる――比べられるものではなかった。どちらもそれぞれに完璧な美であったから―― もとい、実物と絵それぞれを味わい 楽しむ、心豊かな時間を過ごした。
 
実物の燕子花のまわりは新緑が 目にあざやかで、それは森の中に湧き出した紫の泉と見まがうほどに 見事であったが、初夏の緑の中に赤色も交じっていたのは意外 なことだった。葉をすべて 赤く染めた木が、ちょうど泉に差し掛かるように枝葉を張り出していたのである。意外ではあったものの、緑と紫とのコントラストがおもしろく、思わず携帯で写真を一枚。それにしても、ずいぶんと気のはやい紅葉である。

その後、またこの季節外れの紅葉に出合う機会があった。それは楓で、気がはやいと同じ感想を持ったところ、楓の若葉は赤いのだと、そこで教わった。ほかにもそんな木があると。そうだったのか。そしてそのとき、積年の疑問が解けた思いがした。

……続きはVol.37をご覧ください。

ありよし たまお

作家。東京生まれ。早稲田大学哲学科、東京大学美学藝術学科卒業。ニューヨーク大学大学院演劇学 科修了。1990年、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さんの恋』『風の牧場』『恋す るフェルメール 37作品への旅』『カムフラージュ』 『美しき一日の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人のこと』など多数の著書がある。


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