遊びをせんとや生まれけむⅡ

文=中村敦夫

酒と歌

無類の酒好きに訪れる一日一回の幸せ

 

 

 私が羨ましく思う人種が、二種類いる。

  一つは酒飲み、二つ目は歌好きである。両者に共通するのは、さしたる努力も苦労もなしに、それを嗜 たしなむだけで、このうえもなく幸せになれるというところである。

  まずは、前者について書こう。私は下戸ではないが、酒が本当に美味いと思ったことはない。時々は、顔が赤くなったり、頭が痛くなった りする。だから、家で飲むことも滅多にない。

  ところで、近所の知り合いに無類の酒好きがいる。スポーツ施設の経営者だが、夕暮れが近づくと、そわそわと浮き足だち、やたらと電話をかけ始める。酒の相手を捜すためで ある。こうして、ほぼ三六五日が酒漬けになる。

  幾度かつき合ったが、飲んでいる間は本当に嬉しそうな顔をする。最後は泥酔過程に入るので、私はその前に逃亡することにしている。

  ある時期、夜中に玄関のピンポーンが鳴り、出てゆくと、へべれけの彼が立っているという日々が続いた。寿司の折り詰めをぐいぐいと押しつけてくる。本来は、奥さんの機嫌を取るための土産らしかった。断ると、大声で喚きまくる。受け取ると、笑顔が戻る。仕方がないので、 数晩続けて寿司の夜食を喰うことになった。

(‥‥‥続きはVol.32をご覧ください)

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。

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