四年ぶりの輝ける虚空

三〇年前にさかのぼるモンゴル草原の友情

四年ぶりのモンゴル草原は、いつ もより二週間ほど早いだけなのに実 に青青としていた。そして草原の友 人たち、一〇二歳のアルタンサン先 生と六〇歳の孟 松林(もうしょうりん)さんはいつもの ように首を長くして待っていてくれ た。

もう一人のウインダライさんは数 年前に肺がんを得て鬼籍に入り、い までは本物の虚空から私たちを歓迎 してくれる。彼らとの草原の友情 の発端を振り返ってみると、およそ 三〇年前にさかのぼる。

ここでいうモンゴルは、中国は内 モンゴル自治区ホロンバイル大草原 のことであるが、その年の六月のあ る日、ホロンバイル大草原の中心都 市ハイラル市にある盟立病院に附属 のがんセンターが発足したのを記念して、北京の中日友好医院の李 りがん 岩副 院長といっしょに講演のために招聘 されたのである。

そのときの通訳を担当したのが内 科医のアルタンサン先生。私たちの 五日間にわたる滞在日程をじつに流 暢な日本語で説明してくれたが、な んとおどろくべきことに三日目に私 が食道がんの手術を執刀することに なっている。私は断固としておこと わりした。執刀者というものはその 患者さんが人心地がつくのを見届けるまでが仕事のうちで、今回は術後 二日目に北京に帰る予定だから私に 執刀者の資格はないというのが私の 主張である。

病院側も引き下がらない。ついに 党書記の裁定を仰ぐことになり、帯 津先生の方が正しいとの鶴の一声で 一件落着。ウインダライ先生執刀、 私が第一助手という布陣で手術。手 術が済むや否やウインダライさんの 私を見る目が変った。徹底して執刀 を断わった私を同じ外科医として評価したのである。私の病院に留学し たいと言う。

虚空に立つわが人生の宝物

 

翌日はじめてホロンバイル大草原 に、四方八方すべてが地平線という 大草原は陽炎のなかに眠っている。 このときはイギリス映画『アラビア のロレンス』の冒頭のシーンを連想 しただけで、虚空はまだ感じてはい ない。

ウインダライさんが六ヶ月間の川越滞在を終えて帰ると青年外科医の 孟松林さんがやって来た。純情を絵 に画いたような男だ。見るもの聞く ものすべてに感動している。七ヶ月 間の留学を終えて帰国するとオロ チョン旗の旗長に抜擢されて官僚の 道に。いまでは盟政府の部長として 辣腕をふるっている。

 今回も終始私と行動を共にして、 私のいまは川越の七ヶ月間のおかげ だと感謝してくれる。いつまでもい い男だ。もう一人の草原の友アルタ ンサン先生のご自宅を訪ねる。お おっ!帯津先生!忙しいかねと来 た。二年後の再会を約して別れた。

 三人三様、すべて虚空の人だ。い つもは隔年に虚空に立って虚空の 人々と相見える。わが人生の宝物の 一つにはちがいない。

 

おびつ りょういち

帯津三敬病院名誉院長。日 本ホリスティック医学協会名 誉会長。1936年埼玉県生 まれ。61年東京大学医学 部卒業。東京大学医学部第 三外科医局長、都立駒込病 院外科医長などを経て、82 年帯津三敬病院を開設し院長。西洋医学だけでな く、中国医学、ホメオパシー、代替医療など様々な 療法を駆使してがん診療に立ち向かい、人間をまる ごととらえるホリスティック医学の確立を目指してい る。 新刊は『ドクター帯津の健康暦365+1』(海 竜社)など。講演会、養生塾などの開催については、 http://www.obitsusankei.or.jp/ をご覧ください。


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