ウォータールー橋は何処に

五木寛之さんの講演で知った「暗愁」という言葉

 

私たちは虚空からの孤独な旅人。 旅人は旅情を抱いて生きている。旅情とはよろこびとかなしみ、ときめきとさびしさなどの錯綜するしみじみとした旅の想いであるが、その底にはかなしみが横たわっている。

自らの生きるかなしみといつしみ、他者の生きるかなみを敬いさえすれば、地球の場の自然治癒力の回復などわけないのにと嘆くこと20 年、果たしてその萌(きざ)しの有りや無しや。

昨年の9月に仙台の新聞社から講演の依頼。前後の事情をあまり知らないまま出かけて行っておどろいた。なんと私のあとに作家の五木寛之さんの講演が入っている。五木さんとは10年ほど前、共著ということで何冊かの本を上梓したことがある。

なつかしさが込み上げて来る。こ れはどうしても拝聴して帰らねばな らない。超満員の後ろの壁際に一つ 席を作ってもらう。登壇する五木さ んは相変わらずスマートで足取りも たしかだ。私よりも4歳も先輩と はとても思えない。話がはじまる。 声は若々しく話の歯切れも抜群だ。 その上、さすがは作家さんだ!
話 がすべて文章になっている。

テーマは「暗 あんしゅう 愁」、不覚にも私はこ の言葉を知らなかった。いつも携帯 している電子辞書を引いてみた。
あんしゅう【暗愁】心が暗くなる ような、悲しい物思い。 とある。

 

突然蘇った映画『哀愁』の「生きるかなしみ」

 

いつも付き合っている生きるかなしみとは少しちがうようだ。生きる かなしみには少なくとも暗さはない。そうか! 生きるかなしみは暗愁ではなく「哀愁」なのだ!

念の ためにこちらも引いてみる。 あいしゅう【哀愁】もの悲しいこと。 やはり暗くはない。

突然アメリカ映画『哀愁』(1940年)が蘇って来た。高校 時代に、たしか池袋の「人世座」で 観たはずだ。忘れもしない監督は マーヴィン・ルロイ。ヴィヴィアン・リーとロバート・テイラー主演の悲恋物語だ。こちらも暗さはな い。あるのは郷愁だけだ。原題名は 「ウォータールー橋」。物語の舞台となる橋だ。

のちに初めてロンドンを訪れたとき、まずはこのウォータールー橋を訪れてみた。しかし映画の面影はなかった。そこに在るのはクラシックな鉄橋ではなく平板なコンクリートの橋だった。元の橋はテキサスの金持が買って行ったという。一度テキ サスを訪れてみたいと思ったがいまだに果してはいない。

五木さんの話を聴いてから、生きるかなしみとは哀愁に郷愁が加わったものと思うようになった。暗愁は 処処にできた深み。ひょっとすると 虚空への通用門かもと。

おびつ りょういち

帯津三敬病院名誉院長。日 本ホリスティック医学協会名 誉会長。1936年埼玉県生 まれ。61年東京大学医学 部卒業。東京大学医学部第 三外科医局長、都立駒込病 院外科医長などを経て、82 年帯津三敬病院を開設し院長。西洋医学だけでな く、中国医学、ホメオパシー、代替医療など様々な 療法を駆使してがん診療に立ち向かい、人間をまる ごととらえるホリスティック医学の確立を目指してい る。 新刊は『毎日ときめいていますか?』(風雲舎)など。講演会、養生塾などの開催については、 http://www.obitsusankei.or.jp/ をご覧ください。


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