読経のなかでの達成感

生前葬を決意したわが病院の初代総師長

 

わが病院(1982年開院)の初代総師長のYさんが80歳を目前に現役を勇退したと思ったら、父親の33回忌法要に合わせて自分の生前法要を開くので出席して欲しいと言って来た。

生前法要とか生前葬については仄聞こそすれ何も知らないので『広辞苑』を開いてみた。

せいぜん・そう【生前葬】‥‥生存しているうちに行う、自分の葬儀。従来の葬式に批判的な立場から、本人の意思で行う。

とある。しかし彼女の場合は少なくとも批判的な立場は一切無い。終焉の時を迎えてから周章(あわ)てるのではなく、これまで苦楽を倶(とも)にして来た方々に元気なうちに感謝の意を表したいという、いあわばわが人生に対する誠意の然らしめるところなのだ。

ところは彼女の生家の菩提寺であ る駒込吉祥寺。浄瑠璃「八百屋お七」 で名高い曹洞宗の名刹である。その 広大な佇まいがかもし出す場のエネ ルギーの高さにかけては不足はない。ご住職の朗朗たる読経を聴きな がら私の心は次第に達成感で充たさ れていった。

何故(なにゆえ)の達成感なのか?   経緯はこうである。

 

顧みて悔いはなし、総師長とわが半生

 

中国医学と西洋医学を合わせた、 いわゆる中西医結合のがん治療を 旗印にかかげた病院を開いたのが 1982年の 11 月。その準備の一つ が総師長候補の人選。当時勤務して いた都立病院の同僚のなかから3人 を選んで、たまたま最初の交渉の機会が訪れたのがYさんだったので ある。
 
場所はいつもの居酒屋さん。一 通りの説明のあと、彼女の表情に一 瞬、ある種の緊張が横切る。一呼吸 おいたあと、「わかりました。お世 話になります」との一言。周章てたのはこちらである。正直、2~3日 考えさせてくださいとか、家族と相 談しまして……とかの返事を予想し ていたのである。

 周章てついでに、地方公務員としての年金を棒に振って来てくれるの ですから、あなたのお葬式はかなら ず私が出しますからと口走ってし まったのである。このお葬式はこれ まで二人の周囲でたびたび揶揄の対 象になったものである。

 それにしても彼女の最初の決意の ほどは伊達や粋狂じゃなかった。何 代か続いたにちがいない都心の生家 を売り払って病院の近くに転居して 来たのにはまず度肝を抜かれた。そ して、中西医結合からホリスティッ ク医学へと邁進する私をしっかりと 支えてくれた。おかげで、わが半生 を顧みて悔いはない。

彼女の葬式を私が出したわけでは ないが、彼女も半生を顧みて悔いが ないからこその生前葬なのではない か。私の達成感はここにある。

 

おびつ りょういち

帯津三敬病院名誉院長。日 本ホリスティック医学協会名 誉会長。1936年埼玉県生 まれ。61年東京大学医学 部卒業。東京大学医学部第 三外科医局長、都立駒込病 院外科医長などを経て、82 年帯津三敬病院を開設し院長。西洋医学だけでな く、中国医学、ホメオパシー、代替医療など様々な 療法を駆使してがん診療に立ち向かい、人間をまる ごととらえるホリスティック医学の確立を目指してい る。 新刊は『ドクター帯津の健康暦365+1』(海 竜社)など。講演会、養生塾などの開催については、 http://www.obitsusankei.or.jp/ をご覧ください。


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