Stage『 ハムレット』

シェイクスピアを知り尽くした演出家ジョン・ケアードの『ハムレット』

 

文=萩原 朔美

 

ほぼ全ての俳優が複数役を演じる見せ所

 

観劇が、より楽しくなる秘密の方法がある。それは、役者の演技や照 明や舞台美術、衣裳デザインや音響 などの舞台裏を知ることにあるけれど、今回は特に演出という仕事に着 目してみたい。

なにしろ演出家が『レ・ミゼラブ ル』のジョン・ケアードなのである。 トニー賞を二度受賞している人だ。 どんな仕掛けをちりばめているのか まったく想像がつかない。

しかも、作品が誰でも知っている 『ハムレット』。となると、いかに新しい解釈がなされているのかが演出家に強く求められる。

当然演出家も今までとまったく 違った舞台を作ろうとより一層の創意工夫を凝らすに違いない。演出力が否が応でも目立つというわけだ。

公演案内をみてまず気が付くのは、十四人という役者の数だ。大人 数が必要なのにあえて出演者の人数 を絞ったということは、一人何役 かを演じ分けなければならないの だ。ここに仕掛けの秘密があるだろう。まさかハムレットの内野聖陽が 母親と二役とかはないだろうけれど (笑)、決定的な二役の妙があるに違 いないのだ。クローディアスと先王 とが二役で國村隼が配役されてい る。これは面白い。対立を演じるス リルは見る方にも緊張を強いるからだ。ベテランの力の見せ所だろう。

 

台本を自由に変容させる演出家の解釈の面白さ

 

もう一つの注目点は、

作=ウイリアム・シェイクスピア、 上演台本=ジョン・ケアード&今井 麻緒子、翻訳=松岡和子、となって いるところだ。かなり台本に手が加 わっているのだ。そこがどこなのか が面白いところだろう。演出家が台 本を自由に変容させると予想外のこ とが起こる。ラストシーンをファー ストシーンにしてしまうこともある からだ。

『ハムレット』の舞台を紹介すると きに、繰り返し言っていることなの だが、実は、わたしには個人的に『ハ ムレット』を観る時の最大の楽しみ 方がある。

それは始まりのシーンだ。そこを 演出家がどう乗り越えるのか。考え ただけで毎回わくわくしながら注目 してしまうのだ。

第一幕、第一場。フランシスコーが歩哨に立っている。そこに交代に 来たバナードが現れる。そこで、セリフだ。

バナードが言う「誰だ?」であ る。なんだそれ、だ。どう考えても、 立って辺りを見張っているフランシ スコーが、現れた誰かもわからない 者のバナードに向かって「誰だ?」 と声をかけるのが自然だろう。

そこでこの不自然な始まりをどう 見せるか。演出家の解釈が始まりの シーンから問われることになるわけ なのだ。ちなみに、映画化された『ハ ムレット』のなかではケネス・ブラ ナーが監督主演したものが予想外の 演出だった。

舞台ではまだ面白いものに出会ったことがない。シェイクスピアを知 り尽くした今回のジョン・ケアード 演出に期待したいところである。

『ハムレット』

東京藝術劇場プレイハウスにて2017年4月9日~28日

:ウィリアム・シェイクスピア
演出:ジョン・ケアード/
上演台本:ジョン・ケアード、今井麻緒子
翻訳:松岡 和子
音楽・演奏:藤原道山
出演:内野聖陽、貫地 谷しほり、北村有起哉、加藤和樹、山口馬木也、今拓哉、 壌晴彦、村井國夫、浅野ゆう子、國村隼 ほか
料金(税込):S席9,000円、A席7,000円、65歳以上 7,500円(S席)、25歳以下3,000円(A席)、高校生割引(対象日限定)1,000円

〔住〕豊島区西池袋1-8-1
〔問〕東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296(休 館日を除く10:00~19:00)

 

はぎわら さくみ

エッセイスト、映像作家、演出家、 多摩美術大学名誉教授。1946年、 東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔 太郎、母は作家・萩原葉子。67年 から70年まで寺山修司主宰の演 劇実験室・天井棧敷に在籍。76 年には「月刊ビックリハウス」を創刊、編集長になる。主な 著書に『思い出のなかの寺山修司』『演劇実験室・天井 棧敷の人々』『毎日が冒険』『小綬鶏の家』(母・萩原葉 子との往復書簡)、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩 原葉子との百八十六日』『劇的な人生こそ真実・私が逢った昭和の異才たち』などがある。2016年、萩原朔太郎記 念・水と緑と詩の町 前橋文学館の館長に就任。


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