Music 『ブルー&ロンサム』

世の中からリアルなものとロマン ティシズムが以前にも増してなくなっていく感じがする。

B級の政治コメディ映画のようなノリで本当に大統領に就任してしまい、 就任後はロバート・デ・ニーロが「狂人をワシントンに行かせてはならない」 と言っていた通りに、最新作『ミス・ペ レグリンと奇妙なこどもたち』で健在 ぶりを示したティム・バートンの怪作 『マーズ・アタック』に出てきた米大統 領以上にマッドな暴走を続けているド ナルド・トランプや、歌とダンスとビ ジュアルが3点セットのようになって 成立しているヒット・チャートの状況。 そこで鳴っている音は画一化されていて、まるで宗教のようにみんながスマホを手にしている景色と重なりあっていく。

だから、昨年の終わりにリリースされ、堂々全英チャートの1位に輝いた ザ・ローリング・ストーンズの 11 年ぶりの新作『ブルー&ロンサム』がとても魅 力的に感じられるのだろう。

内容は完全なブルースのカバー・ア ルバム。リトル・ウォーターの「ジャスト・ユア・フール」からオーティス・ ラッシュの「アイ・キャント・クイット・ ユー・ベイビー」まで 12 曲のブルース・ ナンバーが収録されたアルバムがリリースされたのとほぼ同時期に8人目 の子供が生まれたことが発表された、 実に元気な 73 歳のミック・ジャガーは 「このアルバムは僕たちが音楽をプレイ するきっかけを作ってくれた大好きな 人たちへのオマージュなんだ。彼らの 音楽があったから僕たちはバンドを始 めた。僕たちはブルース音楽の運動家 だった。結局、今でもそうなんだけどね」とコメントしているが、一発録りで3日間で録音を終えてしまったという アルバムは、ブルースが大好きなんだというメンバーの気持がそのまま反映 されているグルーヴがある。

ミックとは 60 年代の初め、10 代の時にブルース・アルバムを抱えていたことがきっかけで話をし、バンドを結成 することになった盟友キース・リチャーズの「ブルースは世界中のみんなとど こかでつながっている音楽。骨みたい なもんだよ」という言葉はけだし名言。 ブルース・コードも知らずロックン・ ロールの名曲を演奏することもできな い、自称ロック・ミュージシャンたちに聞かせたいが、ミックとキースと一緒 に 50 年以上活動をともにしてきたドラマーのチャーリー・ワッツの「ローリン グ・ストーンズはかなりうまいブルー ス・バンドだと思っている。これがいい例だ。僕たちが自由にやれば、こういうサウンドになる。……大作ではないけれど、とても良いものだと思う。発表する価値のある作品だと思っている」 と自信たっぷりのコメントをしている。

80 年代半ばからストーンズのメン バーになったロニー・ウッドの「ブルー スは魂にふれる」という言葉は、ストー ンズの最新作に限らず、ストーンズ のバンド名になっている曲をはじめ、 数々のブルースの名曲を世に送り出 してきたマディ・ウォーターズやジョン・リー・フッカー、ハウリン・ウルフといったベテラン勢からゲイリー・クラークJRのような新時代のブルースマンのアルバムを聞くたびに思うこ とでもある。ブルースが持つメランコリックな感情というのは人間の感情が 生まれた時から音楽の中にあり続けているし、この先もずっとあり続けると僕は確信している。

そして、そのリアルな感じが充満し ているアルバムがもう1枚ある。昨年 の 10 月にカリフォルニア州インディオ のエンパイア・ポロ・フィールドで開 催された6大アーティスト競演のスー パー・コンサート〝デザート・トリップ〟 で、ストーンズと同じステージに立ったニール・ヤングの最新作『ピース・ト レイル』は偶然ストーンズの『ブルー &ロンサム』に1曲パーカッションで参加している名ドラマー、ジム・ケルト ナーを加えたトリオ編成で録音されて いて、世界が抱える諸問題を生々しく浮き彫りにしている。
 
ニュース映像と合わせると、不思議な楽しみ方もできる。

ザ・ローリング・ストーンズ 『ブルー&ロンサム』 2,500円+税 UICY-15588 発売元:ユニバーサル ミュージック

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出 版など幅広いジャンルで活躍 するプロデューサー&ディレ クター。伊丹十三、篠山紀 信、横尾忠則、久石譲、ピ エール・バルー、ミック・ロッ ク、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映 画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャ ンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオー ケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で 高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言 (正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲ ンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック 100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。


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