cinema『終わった人』

人生〝終わった人〟 の 青春ストーリー第二章

 

文:川口力哉

 

あの舘ひろしが〝終わった人〟に!

 

今から30年数年前、バブル時代が幕を明けたその年、テレビドラマ「あぶない刑事」で柴田恭兵と共演し、一躍脚光を浴びた俳優こそ、今回の主演舘ひろしである。 テレビ画面の中でギラギラと光る男の魅力をエレガントに放ってき た名優が、今回は、〝終わった人〟 を演じるという。スタイリッシュでハードボイルドな役柄の対極に位置するような役である。監督は映画『リング』で日本映画界にホラー映画ブームを巻き起こした中田秀夫。さらに原作は脚本家内館 牧子。こうして主演、監督、原作者の三つ巴を思い浮かべたところで、一体どんな化学反応が起こるのだろう? と期待が高まる。

上映まもなく、スクリーンには 定年退職のまさにその日を迎えようとしている田代壮介(舘ひろし)が映し出された。かつて黒々としていた髪は白髪交じりの銀髪に色を変え、ギラギラしていたオーラはそこに微塵もない。一瞬、私の目が驚いた。あの頃、男の魅力をふりまく俳優として光り輝いていた名優が、スクリーンの中 見事に枯れていた!
『終わった人』。もう一度タイトルを思い返してみる。そこに忽然 と現れたのは妻千草を演じる黒木瞳である。この千草役こそキャスティングの妙味だったように思う。夫壮介とは違って、千草は決して枯れていない女性なのであ る。そこには内館牧子の同性である女性たちへのメッセージが込められているように感じられた。夫の定年退職を機に、美容師としての独立に向け動き始め、夫とは〝卒婚〟も視野に入れた上で生活を共にしている。
 

行きつく先が気になる起伏ある展開

 

脇を固める俳優陣の多彩さも魅力の一つに違いない。壮介が心を ときめかす相手として登場する広末涼子のアイドル的存在感はいまも健在である。壮介とは偶然の出逢いをきっかけにして恋愛関係へと進もうとする。

職場のカルチャーセンターでの爽やかな笑顔が印象的な彼女が、酒を飲むとちょっと大人の女に豹変するギャップがたまらない!

また壮介の故郷の高校時代のラグビー部の仲間たちも、渡辺哲をはじめとして個性豊かなキャスティング。何といっても笑えるのが、笹野高史のカツラ姿だ。意外にありそうでなかった笹野高史にカツラをつけるとさてどうなるでしょう? と想像してみただけで、もう笑えるでしょう!

壮介の良き友人であり、またいつも温かく 励ましてくれるような存在感は笹野高史ならではの安心感がある。

定年後の壮介には、さまざまな出来事が起こる。紆余曲折を経て、どこへ行き着くのかと、ス トーリーにも起伏がある。もうこの頃にもなると、新しい舘ひろしにも目が慣れてきて、目尻に刻まれたしわの深さを目で追いながら、きっといい歳の取り方ってこういう事なのかもと、一人納得した次第である。果たして〝終わった人〟壮介の結末やいかに?

味わい深い人間ドラマに、ハートフルかつ大人の上質なコメディを織り交ぜた本作は、男女問わず広い世代がその世代なりに楽しめる作品に仕上がっており、キャストの誰かに感情移入しやすいのも見どころだ。原作を読んだ方も、まだ 読んでいない方も、是非とも映画館でご高覧あれ!

©2018「終わった人」製作委員会

『終わった人』

原作:内館牧子『終わった人』(講談社刊)
監督:中田秀夫 
脚本:根本ノンジ
主題歌:今井美樹「あなたはあなたのままでいい」(Virgin Music/ユニバーサル ミュージック)
出演:舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、ベンガル、清水ミチコ、温水洋一、高畑淳子、岩崎加根子、 渡辺哲、田口トモロヲ、笹野高史

6月9日(土)全国ロードショー 配給:東映

かわぐち りきや

俳優。1975年和歌山県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。主な出演作は映画『THE GODDESS OF 1967』(オーストラリア映画)、『李歐』の主演をはじめ『凶気の桜』『阿修羅のごとく』『タッチ』『テニスの王子様』 『スマイル 聖夜の奇跡』『龍三と七人の子分たち』、 テレビ「もっと恋セヨ乙女」「危険な関係」「芋たこなんきん」「ヤスコとケンジ」「行列48時間」「ギルティ 悪魔と契約した女」「白虎隊」、舞台『座頭市』など。 著作に小説『ピースマン』がある。現在、世田谷深沢に開校した、小中生を対象とした未来創造スクール「GREEN STAR」の代表を務める。


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