10月5日(金)~’19年2月3日(日)フェルメール展

みるものを幸せにするフェルメールの絵

 

文=太田治子

 

 いま再び、アムステルダム美術館での感動を

 

この秋から上野の森美術館で開催される「フェルメール展」は、日本美術展史上、最大のものになるという。フェルメールの今みることのできる作品は、およそ 35 点程しかないらしい。その中から、9 点もの作品が上野の森美術館にやってくることになった。これは、すばらしいことなのに違いない。 私の大好きな《牛乳を注ぐ女》も 《手紙を書く女》も今回の 9 点に入っていた。

17 世紀のオランダの画家フェルメールの絵は、日本にもファンが多い。私も、その一人である。今から30年以上前、初めてアムステルダム美術館で《牛乳を注ぐ女》 の絵をみた。それが、フェルメー ルの絵との最初の出合いだった。小さなその絵は、宝石のように輝いてみえた。白い頭巾をかぶった体格のよいおかあさんが、そのたくましい腕で素焼きの壺から皿にミルクを注いでいた。キラリと輝いてみえたのは、絵の中でまさにしたたり落ちている瞬間のミルクの流れだった。私は赤ん坊に戻ったように、このミルクを今すぐに飲みたいという衝動にかられた。 絵の前で、こんなにも幸福なひとときを味わうことができたのは、初めてのような気がした。

それからというもの、私は気 付くと机の前にフェルメールの画集を開いていた。《牛乳を注ぐ女》の一枚は、みあきることがなかっ た。アムステルダム美術館ではミルクのしたたりにばかり眼がいっ ていたのだったが、よくみると テーブルの上にはおいしそうなパ ンも並んでいた。少しごつごつとした感じのするこのパンは、ライ 麦パンかもしれなかった。ミルクには、このようなパンがいいのだろうと思った。この絵と出合って以来、私は一層ライ麦パンが好きになった。

 

妻のカタリーナが守ったフェルメールの絵

 

わが家のフェルメールの画集を繰り返しみていると、手紙を手にする女性の絵がかなりあることに気が付いた。届いたばかりの手紙を読む女性の静かな横顔も、美しいと思った。

その中で、《手紙を書く女》の少女のこちらに向けた笑顔には、 不思議なたじろぎを覚えるのだった。モデルは、どうみても私には少女に思われた。それも、フェルメールのお嬢さんのような気がしてならなかった。このいかにも親しみのこもった笑顔は、彼女が父親のフェルメールにだけみせるものだったのかもしれない。そうだとすると、彼女のおかあさんは、《牛乳を注ぐ女》のモデルだったとも考えられなくはなかった。

デルフトで宿屋を営んでいたフェルメールの一家は、生活が追い詰められていく一方だった。絵の中で娘の着る毛皮の縁取りのある上着は、一丁羅のように思われ た。

フェルメールの死後、妻のカタリーナは必死に夫の絵を守るたに働き続けた。宝石のように美しい絵は、健気な家族の愛から生まれ、守られていったのだった。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》 1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr., in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》 1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr., in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1

〔展覧会〕フェルメール展

〔会場〕上野の森美術館
〔会期〕 2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)
〔開館時間〕 9:30~20:30(入場は閉館の30分前まで)※開館・閉館時間が異なる日あり
〔休館日〕12月13日(木)
〔入場方法〕日時指定入場制
〔前売日時指定券〕一般2,500円 大学・高校生1,800円 中学・小学生1,000円
〔問い合わせ〕インフォメーションダイヤル 0570-008-035(会期前10:00~18:00・会期中9:00~20:00)

おおた はるこ
明治学院大学文学部卒業。76~79 年NHK「日曜美術館」の初代司会アシスタントを務める。86 年『心映えの記』で第一回坪田譲治文学賞を受賞。朝日カルチャーセンター(新宿・横浜)、NHK文化センター(八王子、町田、横浜ランドマーク)よみうりカルチャー横浜でエッセイ・美術鑑賞の講座を持つ。著書に『時こそ今は』(筑摩書房)、『夢さめみれば―日本近代洋画の父・浅井忠』(朝日新聞出版)、最新刊は『星はらはらと二葉亭四迷の明治』(中日新聞社)。


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