11月9日(金)ロードショー『体操しようよ』

不器用な定年男をチャーミングの演じる草刈正雄

 

文:川口力哉

 

真面目から生まれる俳優の魅力

 

  とあるテレビドラマの打ち上げにて、草刈正雄ご本人をお見かけしたことがある。壇上のマイクを前にして、草刈正雄は次のように語った。

「ドラマにしろ、映画にしろ、お芝居をする上で一番こだわるのは脚本です。本がすべてと言ってもいいくらい、何よりもまず本が大事だと僕は思うんです」。他の共演者が、監督やスタッフとの撮影中のエピソードや、役作りの上での苦労話にユーモアを交え会場の笑いを誘う中でただ一人、草刈正雄だけは真面目な顔をして真面目な話を続けた。酒席である。先ほどまで笑い声が絶えなかった宴会場がにわかに静まりだし、いつしか誰もが草刈の声に耳をそばだてていた。

  スピーチが終わると、わっと堰を切ったように割れんばかりの拍手が巻き起こった。それはまさに会場の誰もが草刈の勤勉さに敬意 を示した瞬間でもあった。

  本作『体操しようよ』の主人公佐野道太郎もまた、草刈同様、絵に描いたような真面目な男である。勤続38年、無遅刻無欠勤。妻を早くに亡くしてからは、一人娘の弓子 ( 木村文乃 ) との二人暮らしになるも、不倫には一切無縁。

  そんな真面目男がいざ定年退職となると、さあ大変。娘から「佐野家の新しい主夫は、お父さんです!」と〝親離れ〟宣言され家事 デビューとなるが、何をしても失敗ばかり。平日の昼間から酒を呷り、暇を持て余す日々。そんな自堕落な生活の中で、主人公はひょんなことから朝のラジオ体操の会合へと顔を出すようになる。

 

絵になる男が演じる〝フツー〟の親父

 

  本作のメガホンを取ったのは、 若手要注目監督の一人である菊地健雄。ラジオ体操という、日本人なら誰でも知っている経験のある普遍的テーマに対して、どんな風にドラマ性を織り込んでいくのか監督の手腕にも注目したい。

  そもそも草刈正雄は何を演じても絵になる男なだけにリアリティの確保が難しいようにも思うが、そこに木村文乃の飾り気のないリアルな演技が重なり合うことで、 うまく中和できている感じがした。また特筆すべき点として音響効果の秀逸さも挙げておきたい。 例えば道太郎が誤って皿を割ってしまうシーンがある。皿の破壊音を合図に、親子関係にも亀裂が走ってゆく。またあるシーンでは スコットランドの民謡が流れ出し、閉塞したムードが牧歌的に変化する。そのシーン、そのシーン に実によくマッチした音の選択が 本作に小気味よい流れを生み出している。

  現実社会でも主人公道太郎と同じような境遇の60~70代の男性が 数多くいることだろう。仕事人間として真面目に働き、定年退職する。と同時に会社から家に居場所が移った瞬間から、社会だけでなく家庭からも孤立してしまう男の悲劇とその再生の物語。鑑賞後 ほっと温かい気持ちになれる。運動や趣味、何かをまた始めたくなる。最近うまく折り合いがついていない家族と仲直りを考えてみる。こんな気持ちにさせてくれる映画『体操しようよ』、ぜひとも劇場でご高覧あれ。

©2018「 体操しようよ」製作委員会

『体操しようよ』

 

監督:菊地健雄
出演:草刈正雄、木村文乃、きたろう、 渡辺大知(黒猫チェルシー)、徳井優、片桐はいり、 余貴美子、小松政夫、平泉成、和久井映見

主題歌:RCサクセション「体操しようよ」(ユニバーサルミュージック)
配給:東急レクリエーション

かわぐち りきや

俳優。1975年和歌山県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。主な出演作は映画『THE GODDESS OF 1967』(オーストラリア映画)、『李歐』の主演をはじめ『凶気の桜』『阿修羅のごとく』『タッチ』『テニスの王子様』 『スマイル 聖夜の奇跡』『龍三と七人の子分たち』、 テレビ「もっと恋セヨ乙女」「危険な関係」「芋たこなんきん」「ヤスコとケンジ」「行列48時間」「ギルティ 悪魔と契約した女」「白虎隊」、舞台『座頭市』など。 著作に小説『ピースマン』がある。現在、世田谷深沢に開校した、小中生を対象とした未来創造スクール「GREEN STAR」の代表を務める。


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