10月12日(金)~11月25日(日)『恋に落ちたシェイクスピア』

演劇は体験するに値する魅力的な出来事

 

文=萩原 朔美

 

芝居の裏を芝居で見せるメタシアター

 

実は、最も面白い演劇は芝居の芝居。そう思った経験のある人は多いと思う。落語の高座もいいけれど、楽屋話の方がもっとわくわくしてしまう。そんな感じ。

芝居がどの様に作られていくのか。劇場という構造の実相は。興行とは一体何か。時代と演劇の関係は。役者ってどんな人。演出家は何をするのか。戯曲家という役割は。そんな芝居の裏側を芝居で見せてくれるメタシアターというジャンルがある。劇中劇として展開したり、劇団をテーマにしたドラマであったりする。演劇がどの様に出来上がっていくのか。その工程は、おかしな言い方だけど実はとても演劇的な出来事なのだ。

このメタシアターの手法に磨きをかけて、想像力の羽を自由自在はばたかせた芝居が『恋におちたシェイクスピア』だ。グウィネス・パルトロウとジョセフ・ファ インズが主役を演じた映画で観た人も多いだろう。1998年度のアカデミー賞の作品賞、主演女優賞など多数受賞した作品だ。

映画の脚本を書いた一人トム・ ストッパードは、『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』で知られる戯曲家だ。『ハムレット』のなかでほんの少ししか出番のない二人の登場人物を、晴れがましい主役にしてしまうという発想が面白かった。原作を大胆な想像力で膨らませる、スピンオフと呼ばれる手法が話題になった。

 

訳の心地いい言葉よどみない演出力

 

『恋におちたシェイクスピア』は、演劇ファンにはたまらないスピンオフの爆走祭りだ。

何といっても戯曲が書けずにいるシェイクスピアが恋に落ちるのがいい。妻子を国に残した言わば単身赴任中なのに。当たり前だ。 恋は全て倫理に外れる行為だからだ。で、その恋のおかげで『ロミオとジュリエット』が完成するのだ。

極め付けは、恋の相手には婚約者がいる。おまけに、役者志望だ。 シェイクスピアの時代、舞台に上がることができるのは男だけ。男 装した彼女は、男が演じるよりはるかに魅力的で素晴らしい演技力を持っている。

もちろん二人はつらい別れを経 験することとなる。その体験によってシェイクスピアは『十二夜』を書いた。そんな面白い発想が最後に示される。

だから、観客は演劇の持つ豊かな想像性、人生を鼓舞してくれる力、心をゆり動かす言葉の魔力と出逢うことになるのである。

もう一つ、この芝居で観客が出逢うことがある。外部スタッフが 参加したことだ。松岡和子訳の心地いい言葉と、青木豪のよどみない演出の力である。セリフが流れる水のように自然に伝わるのだ。それがシェイクスピアを隣人のように感じさせられる要因だろう。

おそらく、『恋におちたシェイクスピア』は、創立65周年の節目に劇団四季が、大空に掲げるフ ラッグではないだろうか。人生が生きるに値するように、演劇も体験するに値する魅力的な出来事なのだ。その演劇の本質を実感させてくれるのが『恋におちたシェイクスピア』なのである。

撮影:阿倍章仁

『恋におちたシェイクスピア』

自由劇場にて東京再演 
原作映画脚本:マーク・ノーマン、トム・ストッパード
台本:リー・ホール/翻訳:松岡和子
演出:青木豪/音楽:笠松泰洋/美術デザイン:高橋知子 衣裳デザイン:レッラ・ディアッツ/照明デザイン:門脇寿志 ファイト・ディレクター:新美智士

料金(税込):S席9,720円、A席7,560円(「四季の会」会員 S席8,640円)

〔住〕港区海岸1-10-53
〔問〕劇団四季 予約センター0120-489444
※12月に福岡公演がキャナルシティ劇場(福岡市博多区住吉1-2-1キャナ ルシティ博多内)にて開幕予定。

はぎわら さくみ

エッセイスト、映像作家、演出家、 多摩美術大学名誉教授。1946年、 東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔 太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで寺山修司主宰の演 劇実験室・天井棧敷に在籍。76 年には「月刊ビックリハウス」を創刊、編集長になる。主な 著書に『思い出のなかの寺山修司』『演劇実験室・天井棧敷人々』『毎日が冒険』『小綬鶏の家』(母・萩原葉子との往復書簡)、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』『劇的な人生こそ真実・私が逢った昭和の異才たち』などがある。2016年、萩原朔太郎記念・水と緑と詩の町 前橋文学館の館長に就任。


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