東宝撮影所で青春を過した二人

会うと同時に、まるで昨日も会っていたかのようにおしゃべりに花が咲く司葉子さんと夏木陽介さん。呼び名も〝葉子ちゃん〟に〝夏ちゃん〟。話題は愛車、愛犬のことから、東宝時代の懐かしい仲間たちのことまで 、撮影の合間も途絶えることがない。「ねえ葉子ちゃん、あのロケのときのこと覚えてる?」「夏ちゃん、よく覚えてるわね」とまるで同窓会のようなにぎやかな撮影となった。同じ東宝に所属しながらも実は、ありそうでなかったのがお二人の2ショット写真。フリーになってか らはもちろんのこと、東宝時代にもなかったという。 「そうだね、なぜ今までなかったんだろう」と夏木さんが言えば、「そうね、不思議だわね。でも夏ちゃんはそのころまだ坊やだったもの」と切り返す司さん。先輩・後輩の関係は健在である。

撮影=言美歩
撮影協力=ハイアットリージェンシー東京
〔住〕新宿区西新宿2-7-2 〔問〕03-3348-1234

(Vol.10 2012年1月1日号より)


西のオードリー、東の司葉子

文=夏木陽介

 

スターだけが放つオーラに圧倒された出会い

成田発パリ行きの便のファースト・クラスはその日3人だけの乗客だった。

テイク・オフして数時間後、食事も済んでキャビン・アテンダントたちも 一段落すると、客室の前方が妙にざわめいて数人のCA達が行ったり来たりし始めた。客の誰かが具合でも悪くなったのかと思いソッと訊いてみると、何とハリウッドの往年の大スター、 オードリー・ヘプバーンが乗客の一人いて、みんなサインをもらっているらしかった。学生時代『ローマの休日』や『麗しのサブリナ』、その後の『ティファニーで朝食を』を観て感動したことのあるあの女優さんとこれから 12 時間同じ空気を吸って、同じ空間を共有できるかと思うと、50 何歳かの自分が10 代の少年のように胸が躍った記憶がある。

東宝に入社して撮影所の宣伝部で司葉子さんを初めて紹介された時の第一 印象は、まさにスクリーンで出会った オードリー。その清潔感、美貌スターだけが放つオーラに圧倒された。以来、私のなかには、女優といえば〝西のオードリー、東の司葉子〞がインプットされてしまっている。今でも年一回、 東宝のスタッフや俳優が集まる同友会で会う機会があるが、司さんと会うと胸がキューンとなるのは、私だけではないだろう。

当時、世田谷の成城という街には東 宝撮影所に近いからだと思うが、三船敏郎さんをはじめとして加東大介さん、団令子さん、有島一郎さんなど たくさんの俳優と稲垣浩監督や成瀬巳喜男監督、何人かのスタッフも住んでいて、司さんも私も成城の住人だった。朝のランニングや犬の散歩の途中で、当時珍しかったボルゾイ犬と芝生で遊ぶ司さんと立話をしたり、お隣の稲垣監督のお宅では、よく麻雀で遊んだ時代だった。

そのころ映画界には五社協定という今考えれば愚かな約束事があり、他社の俳優と会う機会は年に一度の映画人 野球大会で、各映画会社のスターたちが一堂に会するときらいしかなかった。それでも若い男優さん達とは夜の六本木や赤坂で一緒に遊ぶ機会はあったが、女優さんとはスタジオで会うくらいしか一緒になることはなかった。

優等生であり大スターまさに東宝映画のヒロイン

此処で初めて司さんを〝葉子ちゃん〞と呼ばせてもらうが、葉子ちゃんは美女にありがちな高慢さは全くなくて、いつでも新人の私達にも同級生のように気軽に話しかけてくれたり、スタジオの喫茶ルームで一緒にお茶を飲んだりしてくれた。そんなことで〝葉子ちゃん〞と気安く声をかけられるようになるのに、それほど時間を要しなかったような気がする。いつのまにか、葉子ちゃんと呼んでいた。

〝明るく楽しい東宝映画〞のキャッチコピー通りを目指した会社らしい家族全員が観て楽しめるいわゆる娯楽映画と、黒澤明監督作品に代表される大型時代劇をメインにした映画作りのなかで、葉子ちゃんは東宝を代表する優等生であり大スター、まさしく東宝映画 のヒロインだった。一方、黒澤監督作品『用心棒』ではちょっと哀しい子持ちの女性も見事に演じて、男ばかりの映画のなかでキラリと光るその演技に私は胸打たれた。

共演した千葉泰樹監督作品『沈丁花』では葉子ちゃんは四姉妹の次女を演じ、長女の京マチ子さん、三女の団令子さん、四女の星由里子さん、母親役の杉村春子さん達と和気あいあいのなかで楽しい仕事ができ、駅前シリーズの第四作『喜劇・駅前温泉』(久松静児監督)では森繁久彌さんの娘の葉子ちゃんと、伴淳三郎さんの隠し子の私が恋人同士なのだが、親同士は犬猿の仲で二人はいわゆる〝ロミオとジュリエット〞のような面白い役だった。最後は東宝映画らしくハッピー・ エンドだった。

小津安二郎監督の『秋日和』、中村登監督の『紀ノ川』、成瀬巳喜男監督の『乱れ雲』など映画ですばらしい演技を見せた後は、演劇の世界に進出し 芸術座、帝国劇場などで数々の作品に主演し、スクリーンのみならず舞台でも葉子ちゃんはヒロインである。スクリーンで見せた華やかな美貌に加え、舞台ではさらに陰影という奥行を見せる女優さんになっていた。

でも、私のなかではやはり〝葉子ちゃん〞。東宝撮影所で初めて出会ったとき抱いた第一印象の清潔感、美貌、そしてスターのオーラは、永遠に私の胸をキューンとさせるのです。

つかさ ようこ 女優。1954年、「家庭よみうり」の表紙を飾った のがきっかけでスカウトされ 東宝と契約、同年『君死 に給うことなかれ 』で映画デビュー。その後は東宝 の看板女優として 数多くの 映画に出演し、66年に は『紀ノ川』でキネマ旬報、ブルーリボン賞、毎日 映画コンクール、日本映画記者会賞などで主演女 優賞を獲得した。10年に旭日少綬章を受章。

なつきようすけ 俳優。1936年、東京生まれ。明治大学経営学部 卒業。58年に東宝映画『大人には分らない』で映画 デビュー以来東宝の専属俳優となる。『密告者は誰 か』『 これが青春だ!』 『なつかしき笛や太鼓』『海へ~See You』『ギドラ の逆襲 洞爺湖サミット危機一髪』、テレビ「青春とは 何だ」「太陽野郎」「東京バイパス指令」「兄貴の恋 人」「明智探偵事務所」「ひまわりの詩」「G メン 75」 「荒野の用心棒」「徳川家康」「家政婦は見た!最終 話」など多数の出演作がある。著書に『サハラ』『男 がひとりでいる理由』『 アソビ半世紀』『好き勝手 夏木 陽介 スタアの時代』がある。


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