大平台の水と温泉

文=山口由美

洋館の邸宅がデイスパとしてよみがえった(写真提供:スパ アット ヤマグチハウス)

箱根は独自の水源を 持つ〝水の里〟

 

箱根で生まれ育った私が、東京に出て一番嫌だったのは、水が美味しくないことだった。

当時は、まだ今のように、当たり前にペットボトルの水を飲む時代ではなく、水道水の味に私は辟易としたのである。

ことさらにそう感じた理由は、私が大平台の出身だったからかもしれない。

大平台は、箱根の中でも、昔から水がよいことで知られている。それを物語るのが「姫の水」である。

豊臣秀吉が小田原攻めのため、箱根山に陣を築いた時、姫君の化粧水として使われたと伝承される湧き水。今も民家の庭先にこんこんと湧き出ている。

私が幼い頃から飲んでいた大平台の水道水は、姫の水ではないが、大平台地区の独自水源による山の水である。

そのことを改めて知ったのは、東日本大震災の時だった。原発事故の影響で、人々が水道水に不安を感じ、パニックになったあの頃、ふと気になって調べてみた。すると、箱根の水道で、浄水場を水源とするのは一部の地域であり、大平台をはじめとした多くの地区は、独自の水源を持つことがわかった。 箱根は、水の里なのだ。豆腐や湯葉が名物なのも、ひとえに水の良さゆえである。
 

アーユルヴェーダと大平台温泉の相乗効果

 

大平台の水は、飲んで美味しいだけではない。化粧水に選ばれたのだから、美肌の水でもある。さらに大平台は、温泉も弱アルカリ食塩水の美肌の湯だ。

大平台温泉は、戦後の開発で、有名旅館もないことから知名度は低いが、 保湿効果が高くて美肌効果のある泉質 である。自宅にこの温泉が引かれていたので、水と同じく幼い頃から親しん大平台の水は、飲んで美味しいだけではない。化粧水に選ばれたのだから、美肌の水でもある。さらに大平台は、温泉も弱アルカリ食塩水の美肌の湯だ。

大平台温泉は、戦後の開発で、有名旅館もないことから知名度は低いが、 保湿効果が高くて美肌効果のある泉質である。自宅にこの温泉が引かれていたので、水と同じく幼い頃から親しんでいたが、その効能に改めて気づいた のは、2015 年5月、自宅を改装 して「スパ アット ヤマグチハウス」 という日帰りスパを開業してからのことだ。

大平台の高台に立つ白い洋館は、富士屋ホテルの最後の同族社長だった私の祖父が昭和5年に建てたもの。スパ 開業の同年に国の登録有形文化財になった。思い出のつまった家を後世に残すため、私は以前から自身が顧客 だったインドの伝統療法、アーユル ヴェーダのトリートメントを提供するサロンに運営を 依頼してスパを開業したの である。

アーユルヴェーダはオイ ルトリートメントだが、スパ アット ヤマグチハウスで提供する手法では、オイルを肌に浸透させた後、スクラブで乳化し、洗い流す。 そのシャワーに温泉を使っているのだ が、サロンの先生が言うには、美肌効果のある温泉なので、本場インドでやるより肌がつるつるになるという。

大平台温泉の効能をこんこんと説かれて、改めて私は、水だけでない温泉の良さにも気づかされたのだった。

大平台には、姫の水と大平台温泉を引いた公共浴場、姫之湯があるくらいで、ほかには、たいした観光名所もない。だが、良質な水と温泉に恵まれたいいところだと思う。

やまぐち ゆみ

1962年箱根町生まれ。旅行作家。『箱根富士屋ホテル物語』『アマン伝説』『一度は泊まりた い粋な宿、雅な宿』など著書多数。自宅を改装したスパ アット ヤマグチハウスのオーナーでもある。


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