真摯に自然と向き合う同志C.W.ニコルさん

アファンの森に出合ったときのこと

 

箱根の我が家には、これまでたくさんの人々をお迎えしました。窓の外に広がる箱根の自然を愛でつつ、共に囲炉裏を囲み、食べ、飲み、何よりとびきりのおしゃべりに胸をときめかせてきました。それは、山の澄んだ空気、囲炉裏の火が取り持つかけがえのない時間だったのだと、改めて感じます。

中でも印象的だったのは、作家にして探検家、そして環境保護活動家であるC.W.ニコルさんをお迎えした時のことです。ニコルさんは空手の修行で1962 年に初来日。そのとき、日本の変化に富む自然と、四季折々の美しさに惹かれ、特に「ブナの森を歩いていたとき、私はその荘厳な雰囲気に圧倒され、得も言われぬ感動に包まれました。その場に立ち尽くしたまま、気がつけば溢れ出る涙が頬をつたっていたのです。これは[エデンの園] だろうか」※ と思ったそうです。75年には沖縄海洋博のカナダ副館長として赴任。けれども日本の森を歩く中で、皮肉なことに、原生林が次々と伐採され、野生の動物たちが棲家を失っている現実を知ることになりました。そして、日本の森の保全のために、体当たりで活動を始められました。

80年に黒姫に居を定め、その6年後、「アファンの森」(ケルト語で〝風が通るところ〟)作りをスタート。地元の林業家と力をあわせて、丈夫で、健康な木が育つように、一本一本の木々に養分がいきわたるように、間伐を行いました。小鳥たちや小動物に必要なものを残して、地面を覆う薮をはらい、若木が育つように整えていかれました。初めてアファンの森を訪ねた時に、私はその森の豊かさに心打たれました。鳥は賑やかにさえずり、様々な植物がのびのびと育ち、風が爽やかに吹き抜け……これぞまさに命をはぐくむ森だと肌が粟立つような気がしました。

 

箱根の美しい山や森を残していくために……

 

ニコルさんと私の田舎料理を肴に、箱根の我が家で時がたつのも忘れ話し合ったことを、今もつい昨日のことのように覚えています。「森を切ったら、文化は完全に滅びます。しかし日本の多くの山の原生林は伐られ、ヒノキやスギの人工林に変えられ、やがて忘れられ、荒れ放題となりました。そうした山や森の緑を回復するためには人の力が必要です」

ニコルさんの言葉の中に、長年、日本の農山漁村を歩き、疲弊した山や森に心を痛めていた私に対する答えがありました。

遠くから見ると緑豊かに見えても、本来の力を失った山々が今も全国にたくさん存在しています。食べ物を求め、里の農作物を荒らすクマやイノシシが害獣として殺されるニュースに触れるたびに、野生の動植物を育み、水を貯め、豊かな土をつくる森の再生が必要だと感じずにはいられません。今、箱根の自然に魅せられ、日本人のみならず海外からも大勢の観光客が訪れています。それに甘んじることなく、私たちの子ども、そのまた子どもに、この箱根の美しい山や森を残していくためにも、自分にできることは何?と問いかけていかなくてはと思います。

※ C.W.ニコル アファンの森財団ホームページより

はま みえ

1943 年東京生まれ。60 年東宝よりデビュー。67 年映画「007は二度死ぬ」。75 年フジテレビ「小川宏ショー」で司会、80 年毎日放送「いい朝8時」で八木治郎氏と司会。01 年より文化放送ラジオ「浜美枝のいつかあなたと」日曜10:30 ~ 11:00 出演中。農林水産省などの各審議会委員として「農・食・文化の継承」について積極的な活動を展開中。10 年4月近畿大学総合社会学部客員教授就任。著書に『凛として、箱根暮らし』(主婦の友社)他多数。「箱根やまぼうし」のイベントの詳細はhttp://www.mies-living.jp をご覧ください。浜美枝さんのブログhttp://blog.hamamie.jp。


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