河江肖剰

考古学者といえば映画に出てくるインディ・ジョーンズを想像する 人も多いと思いますが、墓に埋葬された財宝などを掘り出すのが考古 学の仕事ではありません。ひと言でいえば人間を知る学問です。私 の専門はエジプト考古学で、現代から遠く離れた4500年前の時代と、 そこに暮した人々と向き合っています。高校生の頃にテレビで、ピラ ミッドの中にはまだまだ隠された秘密の空間があるというような内容 の番組を見てワクワク、ドキドキを覚え、四半世紀経った今、その謎 の空間みたいなものの研究に携わっていることを思うと、ああ、ここ まできたのだなと感慨深いものがあります。

1992年から16年間エジ プトに滞在しました。自分がひかれるものが何かを確かめたくて、エ ジプトの大学でエジプト考古学を勉強し、発掘調査隊に参加するうち に、どんどんのめり込んでいきました。今は日本が拠点ですが、年に 数回は現地に出かけます。現地では朝から晩まで毎日データを取ると いう作業です。考古学は何かモノを見つけるというイメージがあると 思います。モノを見つけるというのも大事なのですが、主な仕事は情 報を記録することです。

4500年前のピラミッドの時代に、そこでど ういうことが起こったのか、刑事事件みたいに現場を記録して、当時 の生活、宗教観、社会のありようなどを裁量します。巨石建造物の記 録は三次元計測で行います。レーザー・スキャニングによる計測で す。チームを組んで課題というか謎に挑んでいくのですが、工学者、 コンピュータサイエンティスト、数学者、最近では物理学者もいます。 私が研究しているのはピラミッドの調査で、実際エジプトには数百基 以上のピラミッドがあります。

私の師で、ピラミッド研究の第一人者であるマーク・レーナー博士は、ピラミッドを造った人たちはどこで 生活し、どんなものを食べていたのかなどという、それまで全くなさ れていなかった人の研究に主眼をおき、ピラミッドのすぐ近くに古代 の町があったはずだと発掘調査をし、実際「ピラミッド・タウン」と いう町を発掘しました。私もレーナー隊の一員として、ピラミッドは どのようにして造られたのかと、人々の生活などの調査もしていまし た。今はもう一度ピラミッド自体に立ち戻り、ピラミッドを理解する ための研究をしています。実は、ピラミッドには意外なことに石の造 りがどうなっているかを示すような考古学の基本である計測データが ありません。私たちは三次元でその記録をとっているのですが、現在、 私たちのチームがピラミッドのデータを、おそらく一番持っているは ずです。ピラミッドというのは何かということを、そこから語ってい きたいと思います。ピラミッドの内部がどうなっているかがわかれば ピラミッドの構造にも手がかりが得られるはずです。

でも最終的に大 事なのは、出されたデータをいかに解釈、分析するのかということで、 今後の大きな課題です。考古学者にとって一番大切な要素は、すごく 時間がかかる学問なので、コツコツを楽しめるか、ということですね。 何か発見したとか、仮説が証明されたというのも楽しいですが、一番 楽しいのは日々のコツコツ感です。夕方、発掘調査が終り、ピラミッ ドの後ろに太陽が沈んでいくのを見ると、何千年という時間の隔たり を越えて古代の人たちと同じような感覚になれたような気がします。 幸せを感じます。歴史を学ぶなかで考古学というところから人間を見 るというのは、とても重要なことで、考古学というのは本質を見つめ る学問だと実感しています。

Yoshinori Kawae

撮影:2016年6月9日 東京・赤坂にて PHOTO  言美歩

「考古学者に求められるのは、日々のコツコツ感を楽しめるか、ということですね」

 


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