御存知! 東映時代劇

東映時代劇黄金時代の光彩

文=村松友視

 

昭和30年代から40年代はじめころまで、 各映画会社が専属のスターたちを総動員して記念作品や正月作品としてオールスター・キャスト映画を製作していた。 なかでも東映の〝忠臣蔵〞映画や、〝任侠〞映画には 子供から大人までが胸躍らせた。
なにしろ、遠山の金さん、旗本退屈男、むっつり右門、 一心太助、若さま侍らが一堂に会すのである。
それに美空ひばりをはじめとする東映城の姫たち、 いつもながらの悪役たち。 すべての役者の貌が、いまでも人々の思い出の中に生きている。
東映時代劇は、庶民にとって最高の娯楽だったのである。

取材協力:東映株式会社

Vol.3 (2010年1月25日号)より

華と粋と凄味の底に 独特の重さと渋さの千恵蔵

私が小学校から中学校にかけて耽 溺していた映画館は、静岡県の清水 にあったサクラ劇場と、静岡市の両 替町通りにあった静映(しずえい)劇場だった。 一九四七年(昭和 22 )に小学校に入学したのだが、その頃はまだGHQの 響もあって新作の時代劇は製作されな かったのではなかったか。戦前につくられた時代劇の復活上映や、新作の現 代劇や喜劇、それに輸入フィルムによる洋画が、戦後の人々に与えられた娯楽映画の中心だったように思う。

東急合資により、東横映画と大泉スタジオの配給会社であり、東映の前身である東京映画配給会社が創立されたのは一九四九年(昭和24 )で、その第一作は横溝正史原作、松田定次監督、 片岡千恵蔵主演の『獄門島』だった。このポスターが清水の街のそこかしこ に貼られていたのを、私は子供心に憶えている。片岡千恵蔵主演の『遠山の金さん・いれずみ判官』が翌一九五〇 年(昭和 25 )に上映され、以来ながき にわたって私は千恵蔵フリークの少年 だった。この作品では、遠山金四郎が なぜ背中に刺青を彫るにいたったかにからむ父子の情が軸となっていて、最後にやむを得ず背中の桜吹雪の刺青をあらわにするときの切なさに、心打たれたものだった。

それ以降、東映時代劇は海外の賞を意識する大映や東宝に対して、あくまで日本の庶民をターゲットとする娯楽作品路線をつらぬいていった。

〝遠山の金さん〞シリーズは、千恵蔵 の〝遊び人の金さん〞と北町奉行遠山 金四郎という二つの貌( かお) の使い分けの妙が味わいで、何といっても最後の 御白洲(おしらす)における裁きの醍醐味が見どころだった。上下(かみしも)姿の片肌を脱いで背中の桜吹雪を見せつけ、唇を強く引き締 めながら、酷薄さと凄味をおびた眼(まなこ) で 悪人どもを見すえ、「おい、この背中遠山桜、見事散らしてみせるかい」と啖呵を切る千恵蔵に、胸のつかえがすーっと降りる。その前に巷で一度、「じたばたするねい、日照りつづきで、 ホコリが立たあ!」という啖呵と桜吹 雪を見ている悪人ばらは、いっぺんに 恐れ入ってしまう。

この二つの場面での啖呵ゼリフで、 千恵蔵の上をいく役者はいまだ出ていない、というのが今のところの私の感想だ。何しろ、千恵蔵には堂々たるフィクションの華と粋と凄味の底に、独特の重さと渋さがあったからだ。

『遠山の金さん』片岡千恵蔵

おい、この背中の遠山桜、 見事散らしてみせるかい

なまめかしい色気をもつ大 人の妖艶さで芸者役が実によく似合う木 暮実千代。昭和34年の『忠臣蔵 櫻花の巻/菊花の巻』では大石内蔵助(千 恵蔵)の妻りくを演じている。

右太衛門の映画出演300本を記念して 作られた『旗本退屈男』(昭和33年)。 写真右はずらり勢揃いの正義派チー ム。(右 から)大友柳太郎、東千代之 介、右太衛門、橋蔵、月形龍之介、大 河内傳次郎。写真左は頭巾姿も堂々た る圧巻の悪役たち。(右 から)薄田研二、 山形勲、進藤英太郎、加賀邦男。

派手で賑やかで颯爽とした 主役俳優・右太衛門

千恵蔵と対照的に、渋さとは無縁の絵空事、派手で賑やかで颯爽とした、 額の三日月傷もあざやかな〝御存知旗本退屈男〞早乙女主水之介を、上機嫌で演じていたのが市川右太衛門。千恵蔵贔屓(ひいき)の私でさえ、〝旗本退屈男〞 は右太衛門の右に出る者はあるまいと思わされた。取り囲む敵を睨んだのち、何かに気づいたように「ん?」という 表情を浮かべ、次に「ご所望とあらば 諸 もろはりゅうせいがんくず 羽流青眼崩し、ひと手お目にかけよ うか、ふふ、ふふ、ふふぁふぁふぁふぁ」 と呵々大笑する主水之介、オーケストラの音楽にのって気分満開だ。画面が変わるたびに衣裳を替える不思議さも何のその、己の信ずるところを突き進む右太衛門には主役しか似合わない。 脇役などへの興味は、かけらもなさそうな雰囲気がたまらない。

対照的な二人の御大の存在は、〝忠 臣蔵〞や〝正月オールスター出演映画〞などのときは、字幕の順番、出番の数、上手か下手か……など厄介な問題が生じたと噂されたものだった〝。忠臣蔵〞では千恵蔵の大石内蔵助に対して、右太衛門は脇坂淡路守や千坂兵演じていたが、やはり大石は千恵蔵の世界だった。右太衛門が大石を演じ たのは、一九五六年(昭和 31 )の『赤 穂浪士』の一度だけ。立花左近を騙 かた っ て江戸へ向かう道中で右太衛門の大石 と対峙し、自らを偽者と名乗り道中手形を渡す、本物の立花左近を演じた千恵蔵との場面はなかなかで、二人の重 役役者が東映時代劇を支えているという構図が、その緊迫感あふれる画面から力強く伝わってきたものだった。

二人の御大両立の時代、東映時代劇 は大人のファンに向けた娯楽だった。 だが、一九五四年(昭和 29 )の力道山 プロレスのブレイクをきっかけとするテレビの台頭、美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみによる〝三人娘〞の人気爆発、外国映画の大ヒットといった 時代背景の中で、東映時代劇はその ターゲットを、少年少女にシフトする 企画に着手した。片岡千恵蔵はもはや 五十一歳、市川右太衛門とても四十七歳の年齢に達していたのだ。

そこで、ラジオの人気番組であった 『新諸国物語』の映画化をきっかけに、 中村錦之助、東千代之介、高千穂ひづる、千原しのぶ、田代百合子などの新人を大胆に売り出し、少年少女向けの若いスターを誕生させた。

『旗本退屈男』市川右太衛門

天下御免の向う傷 諸羽流青眼崩し ひと手お目にかけようか

『一心太助』 中村錦之助 粋でいなせな江戸っ子啖呵 十八番の〝泣き笑い〟顔もシビレる 男一匹・われらが錦ちゃん!

『むっつり右門』大友柳太郎 明朗快活な個性と豪快なチャンバラで ウスラ笑いも頼もしい

昭和33年の第1作から38年まで5本作 られた「一心太助」シリーズ。大久保彦左 衛門は重鎮・月形龍之介(写真左)、恋人・ お仲は中原ひとみ(錦之助の隣り)が演じ た。写真は第1作『江戸の名物男 一心太助』 (昭和33年)。

嵐寛寿郎の当たり役を受け継いだ「右 門捕物帖」シリーズ。第1作は昭和 34年に公開。ライバル同心役の進藤 英太郎(写真左)が本作では軽妙な演 技を見せ、笑わせてくれた。写真は第 6作『右門捕物帖 蛇の目傘の女』(昭 和38年)。

小気味よいセリフ回しと きりっとした身のこなしが 錦之助の持ち味
 
そして、『紅孔雀』『笛吹童子』『里見八犬伝』などの世界から一気に抜け出したのが中村錦之助だった。錦之助は、自らの主演作をこなす一方、正月のオールスターで千恵蔵、右太衛門 はじめとする東映時代劇の重鎮たちとの競演の中で、独特の小気味よい演技を示し、大人の時代劇ファンをもつかんでいった。錦之助が、東映時代劇の次代を背負う役者とみなされるまで、さしたる時間はかからなかったような気がする。

先輩たちの演じたスターとしての通過儀礼的な名作である、『親鸞』『反逆』『宮本武蔵』『沓掛時次郎・遊侠一 匹』などをこなしつつ、錦之助ならではのシリーズ物『一心太助』をつかむにいたって、錦之助の人気は不動のものとなった。

『一心太助』における壮快さは、そのテンポの早い小気味よいセリフ回しと、きりっとした身のこなしに、江戸っ 子気分がみなぎっていたことから発し ていた。他の若手の追随をゆるさぬ天賦の才の輝きが、錦之助の明るい魅力にはあった。その持ち味が、沢島忠監督の現代的なスピード感あふれる演出 による『一心太助』の中で咲きほこったのだった。

主人公・一心太助の受け皿として、 月形龍之介の大久保彦左衛門の存在も 忘れてはなるまい。この役は、喜劇役者に演じられることが多かったが、東映時代劇の大悪役として欠くべからざる月形龍之介の起用が、作品に品を与えた。

品といえば、東映にかぎらず時代劇の悪役には品が不可欠だ。現代では、 悪相=悪役というイメージが強いが、この人が鬘を外し自前の服に着替えて街を歩けば、さぞかし人の目を引きつけるであろうという姿、かたち、佇まいの役者が、悪役には多かった。華、品、 そして色気というのは悪役の条件ではなかろうか。

月形龍之介、山形勲、薄田研二、進藤英太郎、加賀邦男、原健策、田崎潤、阿部九州男、吉田義夫、三島雅夫、小沢栄太郎など……主役に拮抗する悪役の風格が、作品に額縁を与えていたの はたしかだった。悪役に気持をかさねさせる現代劇の対照にある、勧善懲悪 の世界の中の悪役なのだから、それをこなすのはかなりのレベルの存在感が必要だったはずである。

笑顔にあらわれる 天衣無縫の明るさの大友

千恵蔵、右太衛門の両御大と中村錦之助を中心とする若手スターの中間の年齢にあって、不思議なかたちでクローズアップされたのが大友柳太郎だった。つくりの大きい端整な面立ち、 立廻りにおける大きい剣さばき、そしてその笑顔にあらわれる天衣無縫の明るさ。そのような特徴は、『快傑黒頭巾』や 『丹下左膳』でも発揮されたが、〝むっつり右門〞シリーズが強く印象に残っている。

〝右門捕物帖〞シリーズでは、おしゃべり伝六役の堺駿二とのコンビが生か れていた。動き、喋り、面白さのすべてにスピード感があり、現代的なセンスをもからめた伝六がいてこそ、 むっつり右門が光るというわけで、絶妙のコンビだった。大友柳太郎の口跡やセリフ回しの不安定さが、なぜか気にならなかった。三 十俵二人扶持の身分である同心の屈託が、あまり出すぎところが、大友柳太郎的大雑把さの明るい魅力だった。そして〝右門捕物帖〞シリーズにも、進藤英太郎、月形龍之介、水島道太郎、戸上城太郎、丘寵児、黒川弥太郎、南道郎、千秋実 いった芸達者が、大いなる支え役を演じていたのだった。

際立った色気と 男らしい声音の橋蔵

中村錦之助のあと、少しおいて彗星のごとく登場し、たちまち女性ファンをつかんでしまったのが大川橋蔵だった。大川橋蔵には、〝新吾十番勝負〞シリーズが七作あって、相手役の桜町弘子や大川恵子のイメージが強く残っている。中村錦之助の小気味よさとは微妙にちがう華をそなえた大川橋蔵は、その際立った色気が魅力の芯にあった。

立廻りは、真剣勝負を思わせるというより、かぎりなく舞踊に近い曲線的なうごきだったが、頭がぶれないのが 舞踊出身役者の立廻りとちがっていた。そして、軀を反らせながら相手を斬り、目を斜めに流す決まり方には、 ぞくりとする色気があった。その真骨頂たる色気が、存分に放たれたのが〝若 さま侍捕物帖〞シリーズだろう。

たしか、〝十文字崩し〞と呼ぶ構え だったと思うが、青眼に構えた剣をひねり刃を上にして構えなおし、相手をきっと見すえる……その構え自体が、 橋蔵の目の色気をカメラでとらえるための振付のようだった。この構えは、右太衛門の〝諸羽流崩し〞と同じで、 アップにしても刀身が画面からはみ出さないのだ。

その立廻りがなよなよと見えないのは、目配りや身のこなしのピード感とともに、「まあ、待てと言ってるんだよ」 と割って入るときの、 男らしい声音のせいだろう。

錦之助は地声と役者の声の折り合いをつけるのに、かなり苦労したのでは ないかと思われるが、橋蔵はもともと男性的なひびきのよい地声であり、そ の声によってセリフが出ると、そこに得も言われぬ艶がからんでいた。後年、テレビの「銭形平次」を演じた橋蔵に、東映時代の声の艶が失われていたのは残念だった。

『若さま侍』 大川橋蔵

『新吾十番勝負』と並ぶ橋蔵(写真右)の大 ヒットシリーズ「若さま侍」。昭和31年から 37年まで全10作。写真は第8作『若さま侍 捕物帖』(昭和35年)。共演作も多い桜町弘 子(左)は完璧な富士額が美しく、しっとり とした情感に富んだ役を得意とした。

男の世界のドラマの中で 艶やかな光を放つ 東映一家の女優たち

東映時代劇の黄金時代がつづいたあと、映画界全体に、テレビという魔物 を源とする逆風が吹き荒れていた。情報はインターナショナルに行き来し、 ジャンルの枠が崩れはじめ、洋画が大人の娯楽として常識となり、何より勧善懲悪の作品が古風に映る時代がやってきた。娯楽時代劇という城の中で蓄積していった財産が、時代の逆風にさらされていったのだった。

逆風といえば、勧善懲悪の娯楽時代劇世界は、あきらかに男の世界を描いたドラマだった。そこに出演した女優 陣の立場から見るならば、女優の自由な芝居にとって、東映時代劇自体が逆風だったのだ。片岡千恵蔵や市川右太衛門時代の花柳小菊、木暮実千代、長谷川裕見子、三浦光子、浦里はる美、 星美智子、千原しのぶ、中村錦之助や 大川橋蔵時代の中原ひとみ、桜町弘子、 丘さとみ、花園ひろみ、雪代敬子、大川恵子、高千穂ひづるなど……女優としては限られた役柄の中で、個性や魅力を発揮せざるを得ない、複雑な心境があったはずなのだ。

だが、いまDVD時代になって検証しなおして見れば、豪華絢爛たる女優の、贅沢すぎる配置に目をみはるのだ。 かつて、画面の中心に眩い男性の主人公があると思って見ていたが、実はその外側に女優の眩さがまぶされていたという逆転が、現代であるからこそ味 わえる。同時代的に東映時代劇を見た私が、今また別のアングルで作品に出会う幸せを体験してみると、東映時代劇という宝庫の光と重さと奥行きを、いまさらのように痛感させられた。順風、黄金時代、逆風とさまざまな季節を生き抜いた東映時代劇は、今も私の中で燦然と存在しているのである。

むらまつ ともみ

作家。1940年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。出版社勤務を経て文筆活動に入る。 82年『時代屋の女房』で第87回直木賞、97年『鎌 倉のおばさん』 で第25回泉鏡花文学賞受賞。『私、プロレスの味方です』『夢の始末書』『アブサン物語』『百合子さんは何色』『幸田文のマッチ箱』『淳之介流―やわらかい約束』『永仁の壷』『 ヤスケンの海』『時のものがたり』『清水みなとの名物は― わが心の劇団ボートシミズ』『雷蔵の色』など多数の著書がある。

お 茶 の 間 で 楽 しむ「東映時代劇」

昭和40年代ころまでは、日曜日の午後に「東映時代劇アワー」といった趣のテレビ番組が放送されており、各家庭の茶の間で、家族そろって東映時代 劇を楽しむ姿が見受けられました。あの頃の家族の団欒を再び、家庭で楽しむことができる「東映時代劇」作品をご紹介しましょう。お茶を飲みながら、煎餅や饅頭を食べながら、あの頃を楽しみましょう。

隔週刊『東映時代劇 傑作DVDコレクション』 昭和30年代にブームを巻き起こした東映時代劇映画の傑 をDVDで楽しみながら、その魅力をマガジンで紐解いていく DVD付きマガジン。スターたちが夢の競演を果たした豪華絢 爛な大作から、情感あふれるストーリーが繰り広げられる佳作ま で50作品をラインナップ。最新号は1月19日発売の第28 号『十三人の刺客』。価格:1,890円(1冊・税込) ㈱デアゴスティーニ・ジャパン http://deagostini.jp/tjd/

今号特集ページにてご紹介した作品も、ご家庭で楽しむことができます。お茶の間で昭和 30年代の映画館の雰囲気を味わってみてはいかがでしょう。

『御存じいれずみ判官』 デアゴスティーニ 東映時代劇傑作DVD コレクション第7号(1,890円・税込)
『旗本退屈男』 デアゴスティーニ 東映時代劇傑作DVD コレクション第6号(1,890円・税込)
『若さま侍捕物帖』 デアゴスティーニ 東映時代劇傑作DVD コレクション第30号予定(1,890円・税込)
『任侠東海道』 デアゴスティーニ 東映時代劇傑作DVD コレクション第21号(1,890円・税込)
『赤穂浪士』(昭和36年版) (東映創立十周年記念作品) デアゴスティーニ 東映時代劇傑作DVD コレクション第1号(1,890円・税込) 東映ビデオ(4,725円・税込)
『赤穂浪士』(昭和31年版) 東映ビデオ(4,725円・税込) 『忠臣蔵 櫻花の巻/菊花の巻』 東映ビデオ(4,725円・税込)

 

 


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