プロマイドが語る昭和スターの貌

~青春のページに刻まれる一枚の写真~

 

長谷川一夫、美空ひばり、石原裕次郎、吉永小百合、舟木一夫、 ザ・タイガース、西城秀樹、山口百恵……。
その時代時代で、人々の心をとらえたスターがいる。
スターたちが紗のカーテンの向こう側にいる住人で、遠巻きにながめる憧れの存在だった時代、ファンたちは、芸能雑誌のグラビアを切り抜いたり、プロマイドを買い求めたりして、スターとの逢瀬を楽しんだ。
大正10年に創業した浅草のマルベル堂は、栗島すみ子を皮切りに数多くのスターの写真を撮り、100年近くにわたりプロマイドの販売を続けている。
歴年のプロマイド売上ランキングを見ていると、雑誌などの人気スターベストテンなどとは微妙に異なる
プロマイド独特の傾向があることに気付かされる。
スターやアイドルたちに夢中になった思春期を過した泉麻人さんと、今回は山口百恵が引退する昭和55年までのランキングを基に プロマイドに見る昭和スターの貌をご紹介しよう。

企画協力・写真提供=マルベル堂

舟木一夫©マルベル堂

浅丘ルリ子©マルベル堂

若尾文子©マルベル堂

岸惠子©マルベル堂

プロマイド映えする〝昭和スター〟

文=泉 麻人

 

〝プロマイド映え〞するルックス 第一号は女優・栗島すみ子

 

浅草の新仲見世通りにいまも〝プロマイドのマルベル堂〟は健在だ。通りがかるとついつい立ち寄って、好みのスターのプロマイドを物色してしまう。とくにこの数年、オールドファンを対象にした昭和時代のアイドルのコーナーが充実しているのがうれしい。

マルベル堂が浅草に開業したのは大正10年というから、随分古い。ちなみにその年は前年に設立された蒲田撮影所で松竹キネマが本格的に始動する年。マルベル堂が創業50年を祝して昭和47年に出した〈プロマイドと共に50年〉という社史的な冊子に、開業の経緯が記されている。

「マルベル堂先代社長三ツ澤実四郎氏は当時の熱烈なる映画ファンでありまして、その頃まだ学生でありました古川ロッパさん達と相携えて、プロマイド愛好会を主催して、プロマイドの複製配布などをして居りましたが、たまたまプロマイド出版屋の出現と共に街にプロマイド店もポツポツと出来てまいりましたのに刺激され好きな道を選んで、大正十年五月に浅草の繁華街であります新仲見世通りに小さなプロマイド店を開業いたしました。その頃のプロマイド店は神田に二軒、銀座に二 軒、人形町に一軒、新宿に一軒、浅草に四軒の計十店舗だったと言われております……」

とあるから、つまりそれ以前からちらほらとプロマイドを扱う店は存在していたのだ。ただし、当初の被写体の 主流は新橋あたりの人気芸者だったと 聞く。この大正10 年に封切られた松竹 キネマの最初のヒット作『虞美人草』 の主演女優・栗島すみ子のプロマイドが大いに売れて、ブームが始まったと されている。

彼女のプロマイドはマルベル堂のような専門店の他、繁華街の絵ハガキ屋の店頭にも掲げられていたというが、 いまどきの〝インスタ映え〟なんて物言いにならえば〝プロマイド映え〟す るルックス、といえるのかもしれない。一方、若い娘たちが群がった男優の方は、林長二郎(長谷川一夫)、尾上松之助、阪東妻三郎、上原謙、佐分利信……といった面々は昭和の戦前組だが、田中絹代、高峰三枝子、山田五十鈴、月丘夢路……といった女優陣とともに、僕にとって風貌の印象が強いのは、ある程度年を重ねた戦後作品における姿である。

‥‥‥続きはVol.34をご覧ください。

マルベル堂のプロマイド第一号となっ た初期の松竹蒲田のスター女優・栗島すみ子。昭和12年に小津安二郎 監督『淑女は何を忘れたか』で映画 界を引退したが、昭和31年の成瀬巳喜男監督『流れる』に特別出演し、山 田五十鈴、高峰秀子、田中絹代、杉 村春子、岡田茉莉子らと六大女優共 演と話題になった。

林長二郎の名前で銀幕デビューし、 戦前から戦後にかけて二枚目時代劇 スターとして活躍した長谷川一夫。阪東妻三郎、大河内傳次郎、嵐寛寿郎、 片岡千恵蔵、市川右太衛門とともに 〝時代劇六大スタア〟と呼ばれた。美 貌と流し目で女性ファンを魅了し、うる んだまなざしは〝眼千両〟と言われた。 マルベル堂の創業以来プロマイドが 特に売れたスターの一人である

南沙織 ©マルベル堂

大場久美子 ©マルベル堂

萩原健一 ©マルベル堂

プロマイドのマルベル堂

マルベル堂 プロマイド店
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。昭和のプロマイド全盛期 には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一 つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ 選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版 を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる 〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。
〔住〕台東区浅草1-30-6 〔問〕03-3844-1445 〔営〕11:00~19:00 〔休〕年中無休

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真、遺影撮影 など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが〈マルベル 80’S〉で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体 験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。料金 は12,000円(税別)で、プロマイド5 枚とCDデータがつく(但し、商用利用や二次利用は不可)。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F ※撮影のご予約・お問い合わせはマルベル堂 プロマイド店まで。

いずみ あさと
コラムニスト。1956年、東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京ニュース通信社に入社、「週刊TVガイド」の編集に携わる。84年 退社後フリーランスとして新聞、雑誌などで執筆活動を続けている。『ナウのしくみ』『泉麻人の僕のTV日記 ちょっといい84の話』『僕の昭和歌謡曲史』『東京いつもの喫茶店』『昭和40 年代ファン手帳』『昭和マンガ少年』『80年代しりとりコラム』『僕とニュー・ミュージックの時代 〔青春のJ盤アワー〕』『大東京23区物語』『還暦シェアハウス』『東京いい道、しぶい道』など 多数の著書がある。また、『加藤嶺夫写真全集 昭和の東京』(第1期全5巻ボックスセット) では川本三郎氏とともに監修を務めている。写真は90年前後にマルベル堂で撮影した一枚。


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