街へ出よう

文=太田和彦

レコードを聴く

 

~「知らなかった音」につつまれる至福の時~

 
レコード 盤を痛めないようにと、やさしくターンテーブルに乗せ、そっと針を置くときの緊張感。 A面からB面に裏返して聴くときの 心弾むワクワク感も忘れられない。
欲しかったレコードが 手に入ったときは 、部屋のインテリアにしてジャケットを飾っていた。レコードジャケットは 好きな絵と同じでアートになった 。
80年代に入って、音楽はCDで聴くものに変わってしまったが 、忘れ去られていたレコードに再び熱い視線が送られている。懐古趣味の世代だけでなく若い世代が新しさを感じているようだ 。
音楽好きなら「音楽を鑑賞する場所」へ足を運び、真剣に聴く。
音響の良いスピーカーも備えられたジャズ喫茶で、 新旧のミュージシャンの曲に浸ってみよう。

レコードをあつかう面倒くささが好きだ

 

最近レコード人気が復活し、ソニーがプレスを再開したそうだ。私も音楽はレコード派。若い頃からこつこつと買い集め、今も中古レコード店巡りを続けて一二〇〇枚くらいになった。
 
近ごろの音楽はイヤホンを耳に突っ込んで聴くものになり、スピーカーからの生音ではなくなった。音楽の本来は目の前で音が鳴るもので はなかったか。また最近はダウンロードと言うのか配信で聴くものらしく、私には意味不明で、演奏者や曲目の詳細はわかるのだろうか。好きな音源を手元に置かないで音楽好きと言えるだろうか。

薄い溝を針がトレースして音を出す原始的なレコードは、その間は静かにしていないと針がとぶ。つまり何もせず「真剣に聴く」。その時ジャケット解説を読んだりする。そこがいい。夜、ひとりの時間に、さあ何を聴こうかなと盤を選び、ターンテーブルに乗せて針をおとすのは至福の時間で、私だけの演奏会が始まる。

CDでも同じではないかと言われるとそうでもなく、デジタルは摩滅しないが、レコードはすり切れる。 演奏が終わったら針を上げることを忘れてはならない。もちろん外に持 ち歩くなどはできない。この面倒くささが「真剣に聴く」になる。

レコードを聴くプレーヤー、アン プ、スピーカーなどのオーディオ装置は場所をとり、また高級なシステムは何百万円は当たり前の世界で、 ふつうの人にはとてもできない。し たがって愛聴盤を最高の音質で聴き たい願いは、そういう機器をそろえ たレコード喫茶に行くことで叶えられる。ついでに書けば、CDは大音量にしても聞こえる内容は同じで、 音が大きいだけだが、レコードは「知らなかった音」が溝から無限に湧いてくる。それが最大の魅力だ。

(‥‥‥続きはVol.33をご覧ください)

おおた かずひこ

 グラフィックデザイナー・作家。 『太田和彦の東京散歩、そして 居酒屋』(河出書房新社)他。

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