骨董市を歩く

~思わぬお宝と出合うときめき~

 

早朝、神社や寺で開かれる骨董市に出向く。
そこには、時代物の陶器あり、 古道具や和洋の家具まであり、 思わぬ掘り出し物を見つけて得をした気分に浸れる。
古きよき物の良さを見つめなおし、再生した道具を後世に残すことは なんと贅沢なことだろう。

旅をすると、その町の古道具屋を のぞくのが楽しみになった。古美術 商は敷居が高く、入るのはあくまで 古道具屋。探すのはおもに酒器や皿 で、文字通り埃をかぶっている二束 三文だ。値段の上限は一つ二〇〇〇 円までと決めているが、四〜五〇〇 円くらいが多い。何々焼のような陶 器には興味がなく、印判や染付けの 磁器。新品よりも、役目を終えて今 ここに静かに埃をかぶる。それを買 い求めて再生させるのが好きだ。

例えば盃には「小料理○○」と か「××楼」の名入り盃がよくあり、 店使いしていたものが放出されたの だろう。この盃でどれだけの人が酒 を酌んできたか。嬉しい酒も、その 逆も、好きな女から受けた酌もある だろう。その最終列に自分も加わる。 そんな盃がいつのまにか五〇〇個ほ どにもなり、BSプレミアム 「 美の 壺」の盃編で披露したのが自慢だ。

 

早起きは三文の徳 を実感する骨董市

 

新井薬師骨董市は毎月第一日曜日 の朝六時から始まる。今は午前九時。 小砂利に石畳の通るほどよい広さの 境内は、すでに思い思いの場所に露 店が出ている。陳列はまことに簡単 で、地面にブルーシートを敷いて品 を並べ、上に日よけテントを張って おしまい。店番の人はアウトドア用の椅子で、だいたいは昼寝(朝寝?) 中。始まった甲子園野球の実況を小 型ラジオで聞く人もいて、なんとも のんびりした雰囲気だ。
さあ探すぞ。思いつきで手を出さ ず、まずひとわたり見て目星をつけ る。それからピックアップ購入が私 のやり方。まずは皿や酒器。ふんふ んこれね、これはよく見る、これは 持ってる、これはちょっといいな。 最近多いのは蕎麦猪口で冷や酒によい。印判は同じ絵柄でも濃淡で見栄 えが違い、最もよい品を選ぶのが肝 心、というか面白い。

およそ見当がついて後は専門外 (?)を。地面に直置きした木箱は、 こけし、ハーモニカ、子供の箸箱、 孫の手、ナイフなどが雑然と。山を 成す古い腕時計はマニアにはたまら ないだろう。酒や飲み物のラベルを コレクションした一袋もある。木の 根方にたてかけた、指差しの絵が入 る〈すぐ北   うどんそば   酒有   大 勉強   朝日屋〉のブリキ看板は誰が 買うのだろう。私か?   英国エリ ザベス女王とタウンゼント大佐の 結婚記念肖像写真の八角缶は珍し い。ガラスケースに別格にならぶ素 朴な西洋陶人形は〈オキュパイド ジャパン「占領下の日本」という意 味です。そのうちの1947年〜 1952年、輸出品には「 Made in Occypied 」と入れることが義務づけられていました〉と説明がつき、 愛らしい表情は一つほしいが二八〇〇円だ。

着物や帯など和装の露店は今人気 なのかたいへん多く、若い女性が品 定めに余念がない。紺無地着物の女 性客の帯は、三ツ星サイダー、フルーツヨーグルト、清酒月の光などの王 冠をちりばめたポップなもので、写真を撮らせていただいた。

ここはお薬師様。卒塔婆の建つ石 塀に反物生地をかけ並べ、下の地面 戸板に壺や小皿の眺めは、溝口健二 の名作映画『雨月物語』の京の通り 市の場面のようだ。樹上から聞こえ る蝉しぐれの中、一人で来ている人 が多く、帽子をかぶった中高年お父 さんやロングスカートの女性がゆっ くり見てまわっている。まだ暑くな らない午前中の露天骨董市は色んな 意味で「早起きは三文の徳」。これ ほどよい日曜散歩はない。

私の戦利品は、小盃、豆皿、小皿 など〆て四〇〇〇円。買えなくてグヤジーは、子を背負った夫婦が山道 を旅する絵柄の江戸期の染付け中皿 七五〇〇円でした。

 

病膏肓に入るわが古物趣味

 

門前仲町、富岡八幡宮の骨董市は 毎週日曜 ( 第三日曜除く ) 。広い境 内は伊万里など食器をはじめ、漆器時代布、古民具、おもちゃ、時計、 刀剣兜、アジア民具、観音仏像、金物、 大工道具、氷配達がアラヨっと運ぶ 手鉤にいたるまでありとあらゆる古 物が並び、まさに「世の古物で売り 物にならざるはなし」。まずは陶磁器、おっとあったあった。それは柳 に飛びつく蛙を雨傘で見る小野道風の絵の染め付け皿二〇〇〇円。こればかりは即決購入。

本殿右にも露店は伸び、モダン ガールのイラストが入る「ジャズ娘 小唄   娘十七八ゃ」の楽譜がいい。 二〇〇〇円。原節子の顔写真が三つ も入る表紙の雑誌「新映画」も二〇〇〇円。

その隣の箱に目が引きつけられ た。明治のころの刷りもの絵だ。〈湯島天神藝者乃すゞみ〉は高台のガス 灯脇で夕涼みする芸者と旦那。〈華族女學校玄関前の圖〉は紫のはかまに革靴の上流子女がにぎやかに登校 する。〈新流行の服装其二蛍狩の圖〉は愛玩の狆を抱いた娘が二人、団扇 で蛍を追う子を見る夕闇がいい。

古物趣味も絵を買うようになると 病膏肓だ。一枚一〇〇〇円。ウーン ……今しかない、一期一会、さまざ まに言い聞かせしぼりだすように 「これください」と言うと、にやに や見ていた店主がにっこり。「これはいいものですよ」の声が嬉しく、 小さな盃を一個おまけしてくれた。

その先の一段高い木陰は露店に最 適のようだ。

「ここ、いいですね」

「そうなんだよ、鳥居ん所は工事す るってんでこっちに移ったが、ここのがいいや、日陰でみんなじっくり 見てくれるし」

じっくり見た分厚いアルバムは、 京都舞妓や名勝を行く大原女などの 白黒写真を人工着色した絵はがきコ レクション。開いた間に、藁半紙に鉛筆書き女文字のメモがはさんであ る。

──しっとりと新芽持つ木はうるお へど肌には寒き春の雨かな

──音もなく木の間をぬうて猫の行 く春とはいえど雨のつめたし

「こ、このアルバムはいくらです か?」「五〇万円」言下に答えられ て返事できず。もしこれが本になって出版されたら買うだろう。

うなだれて戻ると「太田さん」と 声をかける人が。「渋谷の松濤はろうです」。神泉のなじみの居酒屋の 若主人で、店で使う酒器をいつもこ こに買いに来るそうだ。私は今買っ た養老の滝の絵の徳利を見せた。

「これいいですね!  まだありまし たか?」

「なーいよ」

早いもの勝ちと鼻高々。彼の袋 いっぱいの戦利品はいずれ店で見る ことにしよう。

おおた かずひこ

 グラフィックデザイナー・作家。 『太田和彦の東京散歩、そして 居酒屋』(河出書房新社)他。


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