米倉 涼子

「ドクターX~外科医・大門未知子~」。
ドラマが低迷していると囁かれて久しいテレビ界において近年、もっとも視聴者を惹きつけているドラマである。
女優の仕事はテレビドラマに育てられたと言い切る米倉涼子の代表作の一つであり、主人公のブレのないキャラクターは多くの人々に支持されている。
10 月には、第5シリーズがスタートする。200以上の国と地域で最新作を含む全シリーズの配信も決定した。
女優と呼べる人物が果して何人いるかと首を傾げたくなる現状のドラマ界にあっておそらく誰もが女優と認める華も資質も備えた、まさしくスター女優だが、米倉涼子は、自身を女優と名乗ることにはためらいがあり、恥ずかしいと言う。
どこまでのレベルに達したら女優なのか、と常に自分に問いかける。 謙遜というより、そこに米倉涼子という女優の品性が匂い立つ。 演技というスキルだけでは人々を感動にまで導くことはできない。米倉涼子自身に宿る品性という輝き、それこそが人の心に響くのだ。

撮影=言美歩 ヘア&メイク=石川亜矢 スタイリング=栗田泰臣

役柄を通していろんな俳優の方々と出会い、真正面から向き合い、 そこに私の想像を超えたことが起きるとき、 演じることの 面白味というものを 感じます。

品性を宿した輝き

文=米谷紳之介

 

インタビューは血液型の話題から始まった。米倉涼子はB型なのだが、実は大スターにはB型が多い。高倉健、森繁久彌、森光子、 渥美清……と、名前を挙げながら 気づいたのはいずれの俳優もシリーズ作品を持っていることだ。 高倉健には『昭和残侠伝』『網走番外地』などのシリーズがあり、森繁久彌には『社長シリーズ』や『駅 前シリーズ』、森光子には記録的 な公演回数を誇る舞台『放浪記』、 渥美清には全 48 作の『男はつらい よ』がある。
そして、米倉涼子が主人公の天才外科医・大門未知子を演じる 大ヒットトシリーズがご存じ「ドクターX~外科医・大門未知子~」だ。

「今、名前を挙げられた方はみなさん偉大な方ばかりで、私には遥か彼方の存在です。私自身はまだ自分のことを「女優です」と言うことさえ抵抗があります。演技の引き出しも、技術的なこともまだ まだ。女優という言葉を背負って仕事をしていく使命感や覚悟はありますが、では、どこまで行けば、自分は女優だと自信を持って言えるようになるのか……。女優はこれから先もずっと追いかけ続けていくものだと思います。

「あっ、そういえば西田さんもB型ですね(笑)」
と、米倉涼子から指摘があった 西田敏行にはもちろん『釣りバカ日誌』シリーズがある。その西田とも共演する「ドクターX」の第5シリーズがいよいよ始まる。岸部一徳、遠藤憲一、内田有紀、鈴木浩介といった常連組に草刈正雄、陣内孝則らが加わり、永山絢斗、野村周平ら若手の出演も話題である。段田安則、田中圭も5年ぶりに戻ってくる。さらには大地真央も新キャストに名を連ねる。

「大地さんのことはお嬢様のようなイメージがあったのですが、台本の読み合わせをして、印象はガラッと変わりました。そうか、大地さんは宝塚で男役をやっていたんだと思い出すほど、ぐいぐい押 してくる迫力が凄いですね。他の出演者の方も、それぞれご自身の役に魂を込めて取り組んでいるの が肌で感じられました」

「ドクターX」がシリーズを重ね ながらいささかも新鮮さを失わず、むしろ面白さが増しているのは、こうした役者たちの演技がぶつかり合って化学変化を起こし、物語の強度や張力を保っているからでもある。米倉はそれを〝出会い〟という言葉で説明する。

「まず大門未知子という役との出会いがあり、脚本家の中園ミホさんやスタッフの方との出会いがありました。さらに素晴らしい役者さんとのたさんの出会いがありました。ドラマの中では毎回違う人、違う演技、違うシチュエーションとの出会いあり、そこ 私が刺激をもらっています。たとえば、新たな敵に出会ったとき、私は何を感じ、どう反応するのか ……。毎回、挑むべきハードルが目の前に現れるようで、大門未知子を演じる面白さもそこにあるのかもしれません」

米倉は聞き手の言葉にじっと耳を傾け、言葉を選びながら静か 語る。饒舌ではないけれど、真摯な話っぷりには曇りがない。

「もともと学校や劇団で演技を学んだわけでもなく、演じる役を理論的に組み立てていくほうではありません。というより、それができないんです。だから今は自分の直感で役柄をとらえ、つねに勇気を持って新しい世界に飛び込んでいくだけです」
 
取材していてふと思ったのは、小津安二郎が好んで使った品性という言葉。小津は俳優にも品性を求め、映画『小早川家の秋』では原節子に「品行は直せても、品性 は直らない」という台詞を言わせている。奢らず、高ぶらず、潔く、まっすぐな心で人や物語と向き合い、自分が素直に感じたことを大切にする。大門未知子という強烈なキャラクターが世代を超えて支持されるのは、その根っこに米倉涼子本人の品性があるからだ。品性を宿した輝きは共演者の演技と いう光を乱反射することでさらに増す。それが米倉涼子という女優がエンターテインメントの世界で放つ華やかさの正体であるような気がしてならない。
 

こめたに しんのすけ

1957年、愛知県蒲郡市生まれ。立教大学法学部卒業後、新聞社、出版社勤務を経て84年に独立。ライター・編集者集団「鉄人ハウス」を主宰。映画、スポーツ、旅、人物などのジャンルを得意とする。著書に『映画 勇気がわきでるタバコ名場面』(同文書院)、『老いの流儀 小津安二郎の言葉』(環境デザイン研 究所)など、構成・執筆を務めた書籍に関根潤三『いいかげんがちょうどいい』( ベースボー ル・マガジン社)、野村克也『プロ野球 最強のエースは誰か?』『最強の組織をつくる 野村メソッド 』( いずれも彩図社)など多数ある。


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