21.05.27 update

川崎市岡本太郎美術館

自然と溶け合う
岡本太郎美術館

「やっぱり遊園はいいなあ、以前と町の雰囲気が変っていない、落ち着きます」と言う北川さんと生田緑地に向かった。大学時代の4年間、体育会のゴルフ部に所属していた北川さんにとって生田緑地は日々のランニング・コースだった。ゴルフの腕前はプロゴルファーを目指してアメリカにゴルフ留学するほどだった。生田緑地内には日本民家園、青少年科学館、プラネタリウムなどがあり、1日遠足気分で楽しめる。バラ園や梅林など季節の自然も豊かで原っぱの芝生で弁当を広げるのも楽しいだろう。民家園や科学館を抜け、奥の池の先、一番奥にあるのが「川崎市岡本太郎美術館」だ。

 岡本太郎は1911年に母・かの子の川崎の実家で生まれた。2011年は生誕百周年に当たる。生田緑地という環境を配慮し〝自然と融合した美術館〞をコンセプトとする美術館だけあって、『母の塔』を中心とする屋外の公園スペースも気持ちがいい。青空にそびえるような『母の塔』はまず圧巻だ。

 展示作品を見ると原色使い、特に赤と黒い縁取り線が岡本太郎の作品の特徴のように見える。「好きな色はと訊かれると太郎は血のような赤色と答えていました。赤は太郎のイメージカラーです」と学芸員の佐々木秀憲さんが教えてくださった。太郎の作品に刺激を受けたのか、北川さんも熱心に佐々木さんに質問を投げかけている。
「アートは感じればいいと思っていたのですが、学芸員の方の説明をうかがうと、より親しく作品と接することができますね」とこの美術館への初めての訪問を楽しんでいる様子。

 太郎はマン・レイやロバート・キャパといった写真家とも交流があり、ここには写真作品も展示されている。また、岡本太郎デザインによる『ひもの椅子』『駄々っ子』『手の椅子』『坐ることを拒否する椅子』など愉快な椅子の展示が楽しい。もちろん、すべて座ることができる。太郎は生活に欠けているものを芸術によって与えたいと考えていたようである。そして、庶民的な、日常的に手に触れ手に入るものを大事にしたということだ。そういえば、今は珍しい卓上ライターや、グラス、ティーセットなどの作品も展示されているが、いずれも生活に遊びを求めたような楽しい作品ばかりである。

 一通り見終わって「カフェテリアTARO」でコーヒーブレイク。店長の喜多淳さんにTAROブレンドを淹れていただいた。冬の青空の下、空気は冷たいが凛と澄んでいてテラス席が気持ちがいい。「なんだか、すごいパワーをもらいました。岡本太郎という芸術家は感覚だけで作品を造るのかと思っていましたが、実はデッサンを繰り返し作品を仕上げていたんですね。芸術の血統という意味ではサラブレッドであるにもかかわらず、努力を重ねて独自の世界を生み出したことがわかり、自分自身を省みるいい機会になりました」と、岡本太郎の作品に大きな刺激を受けた様子の北川さん。同じアーティストとして通じ合うものが北川さんの中に見えたのだろう。

川崎市岡本太郎美術館
都心の美術館ではなく、郊外の自然の中にあるからこそゆったりとその作品と向かい合うことができる岡本太郎美術館。鑑賞の後はカフェで作品の余韻に浸るのもゆったりとした大人の遠足ならでは。カフェテリアTARO(044-900-6155、3月~11月10:00~17:00L.O.、12月~2月は16:30L.O.)では、TAROブレンド350円、生ビール525 円、えびとたまごのサンド700円、温泉玉子のカルボナーラ800円、ビーフシチューオムライス1,050円、太陽のパルフェ680円などを緑を眺めながら味わうことができる。

〔住〕川崎市多摩区枡形7-1-5 〔問〕044-900-9898 〔開館〕9:30 ~17:00(入館は16:30まで) 〔休〕月曜(祝日の場合は除く)、祝日の翌日(土・日曜の場合は除く) 〔入館料〕常設展のみ開催時は一般500円、高校・大学生・65 歳以上300 円。観覧料は企画展により異なる。

*掲載時の内容ですので、開館時間・休日が記載と異なる場合があります。ご来館時は事前にご確認ください。

映画は死なず

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