人生の「ライン」

私の最後の砦、競輪というギャンブル

 

 

「年を取るにつれて、趣味や遊びを 増やした方がいいよ」

とアドバイスをしてくれたのは、 故・寺内大吉さんだった。寺内さん は、直木賞作家であり、キックボク シングや競輪の評論家であり、東京 世田谷通りにある大吉寺の住職か ら、浄土宗六百万信徒の頂点である 宗務総長にまで登りつめた高僧だっ た。 「趣味を増やせ」という言葉は、こ の年になっても忙しくしている私に は、あまり現実味がない。しかし、 周囲の老人を見渡すと、仲間が病死 したり、寝たきりになったりで、相 手をしてくれる人が減少しているよ うだ。

今まで縁のなかった俳句愛好会に入り、活路を見出しているようなタ イプには、まだ救いがある。しかし、 大方は、新しい挑戦には尻込みし、 淋しくなる一方だ。

 

そう言えば、私の場合も、ゴルフ に限って言えば、誘ってくれる仲間 が少なくなり、フェアウェイに出る 回数も減っている。この先の体力の 衰えを考えると、いつまでできるか とやや不安にもなる。ゴルフ場で、 自分より年上らしき人を見かける、「おいくつですか?」などと、つ い聞いてみたりする。

とは言え、スポーツはあきらめた として、私には最後の砦がある。観 戦するだけでも楽しいギャンブル、 競輪である。競馬は、馬と話せない かぎり、推理の根拠がない。競艇は モーター勝負だから、機械好きでな いと考える気も起こらない。

これらに較べると、競輪はすべて において「人間的」である。

 

競輪で縁が生まれた寺内大吉さんとのライン

 

九人の人間が、動物やメカに頼ら ず、自分の脚力だけで闘う。大体 は、地域ごとに結束するチーム戦と なり、戦略戦術のぶつかり合いが醍 醐味だ。先輩を勝たせるために、新 人が犠牲的貢献をしたり、その逆も あったりで、推理するのがまことに 楽しい。

 一つのレースでチームを組むこと を、「ライン」と呼ぶ。企業などでも、 人脈や派閥をそう呼ぶことがあるらしい。

ところで、私は紋次郎時代に、友 人に初めて競輪場に連れてゆかれ、 信じられないような大当りをした。 自分が天才だと思い込み、はまり込 んでゆく私を、誰が非難できただろ う。

 この流れの中で、特別競輪の放送 番組のコメンテーターになり、寺内 大吉さんと十年近くもレギュラーで コンビを組むことになった。偶然 とは言え、二人には別の共通点もあ り、人生の「ライン」であることが 分かった。
 
寺内さんは私の高校の先輩であ り、同じ世田谷近隣の住人であり、 二人とも物書きだ。

「ライン」で学んだ知恵は、今でも 私の中で生きている。

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。


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