二万匹の大虎

男たちのアル中問題が 深刻なソ連社会

 

一九八七年と言えば、ゴルバチョフ(八五年ソビエト連邦共産党書記長就任、九〇年大統領就任)のペレストロイカ(再建)が、具体的に進み始めた時期だった。共産党独裁で行き詰っていた政治、経済だけでなく、報道も自由化へ踏み出した。当時、私がキャスターを務めていたTV情報番組は、通常は不可能と思わ れたテーマに挑んでいた。

「モスクワ警察を取材できないか」 と誰かが言い、果敢にもソ連大使館に打診した。対象が最も機密性の高い公的機関だから、ダメ元のトライだった。しかし、ものは試してみるものだ。OKが出たのである。

私は、世界初のスクープに興奮し、モスクワへ向かった。まず、警察本部の地下にある〈一一〇番〉室に入った。最初の質問は、「緊急通報で一番多い電話の内容は何?」だった。警察力の強固なモスクワでは、あまり犯罪はないだろうと考えたからだ。びっくりするような返事が返ってきた。

「一日に二万件の通報があります。 ほとんどは主婦からのもので、亭主が酔っ払って暴れているから、逮捕して欲しいって要請です」

「ええっ!」

あの図体のでかいロシア男が、大虎になって暴れまれば、家族では押え切れない。それにしても、どうしてそんなことに?

私は、ソ連社会で、男たちのアル中問題がとてつもなく深刻だという情報を掴んだ。酒乱が原因で、労働生産性が低下しており、政府も頭を抱えていた。

……続きはVol.35をご覧ください。

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。


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