怒ると、顔をそむける

馬は人間の感情を理解できる?

 

テレビのミニ・ニュースで、ちょっと笑えるネタに出合った。動物学会の大発見で、馬は人間の感情を理解できるそうだ。

馬を正面から睨みつけ、大声で怒鳴ると、馬は首ごと右を向き、左目だけで人間の表情を窺う。それ以降、馬を睨みつけただけで、同じリアクションをくり返すという。

人間の感情を理解し、それに反応するのであれば、「馬耳東風」は死語になる。

それにしても、何で今まで、こんな単純なことが分からなかったのか?

人間と馬の関係は密接で、何千年ものつきあいの歴史がある。生物学も動物学も進歩してきたが、心理学の部分だけをスッポ抜かしてきたのだろうか?

馬が人間の感情を理解できるのなら、さらに深く精密に、コミュニケーションを築く道があるかも知れない。

ひょっとしたら、ほとんどの動物たちは、知識量は少なくとも、生き方に関する理解力や判断力においては、人間より賢いかも知れない。東大法学部卒の高級官僚が、子どもでも分かる嘘を連発するのを馬や鹿が見たら、「バーカ」と軽蔑するにない。

この放送がきっかけで、私は自分と馬の接点を思い出した。

 

馬に鞭を入れて 気分はカウボーイ

 

小学生だったころ、映画は全盛期 だった。私は洋画派で、特に西部劇には目がなかった。麦藁帽子をかぶり、風呂敷を首に巻き、玩具のピストルをベルトに差し込み、鏡を見ては悦に入っていた。しかし、何かが足りない。

馬だ!馬なしでは、カウボーイ の雰囲気が完成しない。

当時、私は福島県の中型都市に住んでいた。一時間ほど歩けば、郊外 の先に田園地帯が広がっていた。農家によっては、まだ耕作馬を飼っているところもあった。つてを頼って、その一軒を訪ねた。

是非、馬を散歩させてくれと申し出た。ごつい風貌、ごつい体格の農夫は、愛想よく承知してくれた。歩くだけなら、乗ってもよいと、祭用の鞍まで貸してくれた。
水路に平行する農道までくると、私は馬にまたがった。最初は並足、次は早足。ついに誘惑に負け、青竹で鞭を入れた。驚いた馬が全力で駆け出す。最高の気分だった。自分が 西部劇のヒーローに思えた。

一〇〇メートルも走ると、馬はヨタヨタになって止った。息をぜいぜいさせ、ばけつ一杯分もの汗が流れていた。私は馬をUターンさせ、しばらくしてから、又鞭を打った。

遠くに人影があった。仁王立ちの姿がどんどん近づく。馬主の農夫だった。鬼のような形相。

「バカ野郎!馬を殺す気か走ったことなんか一度もねえんだぞ!」

あの時の農夫の睨み顔を思い出すと、思わず顔をそむけたくなる。

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。


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