喋る人ほど落馬する

落馬に逆らうと 大怪我をする

 

前号では「馬」について書いたが、もう少しだけつけ足そう。

乗馬ができるようになったのは、 馬賊が主人公のTVドラマ「水滸伝」の撮影である。私とレギュラー の若手俳優たちは、正式な乗馬レッスンを受けることなしに、毎日の実践でマスターしていった。

馬は気難しい。乗り手の腕前を値踏みしたりするので、思い通りに操るのは楽ではない。走っている最中、急に首を下げたり、いきなり進路を直角に変えたりする。どんな名手でも、落馬をゼロにするのは不可能だ。当初は私も、二日に一度は落ちていた。

そこで学んだことは、大きくバラ ンスが崩れた時は、覚悟することだ。そして、落ちても安全な場所をギリギリまで捜し、自ら手綱を放すのである。落馬に逆らうと大怪我をし、動きに従えば軽くて済む。

ところで、撮影中、俳優たちに面白い傾向が表れることに気がついた。

週替りで、新しいゲスト・スターが登場する。たいていは先輩俳優たちだが、撮影前に若手俳優を集め、乗馬に関するうんちくを傾けることが多かった。奇妙なことに、喋る人ほどあっさりと落馬した。中には、片足を鐙(あぶみ) にかけ、馬の背にまたがろうとして、反対側に墜落する人もいた。乗馬する前の落馬だ。

 

恐怖を打ち消すために 理屈にすがる

 

業界の大御所、敬愛する山村聰(そう) さん(故人)のケースも忘れられない。 自分は馬が得意だと言い張り、代役を拒否した。

そればかりではない。

何らかの事情で、撮影時間が遅れ、待ち時間が一時間以上も延びた。そこで、草原のど真ん中、車座になった若手俳優を相手に、名優の大講演が展開された。テーマは、「落馬の際の身の処し方」だった。結論は、「落馬しても、最後まで手綱を放さない」であった。

しばらくして、撮影が開始された。全員馬上の人となり、隊列を組む。カチンコが鳴り、馬群が一斉に飛び出した。

その時、悲鳴が上がり、馬群から外れて、一人だけ地面に放り出された人がいた。山村さんだった。

驚いた私たちは、馬から飛び降りて駆けつけた。山村さんは大声で叫 んでいた。

「私は最後まで手綱を握っていた!だから怪我はない!」

その発言は無視して、私たちは救急車を呼んだ。結果は、肋骨骨折で入院だった。

落馬する人は、なぜ乗馬論をあれだけ熱心に語るのか?

私の答えはこうだ。「馬が怖いから」。

人は、恐怖を打ち消すために理屈にすがる。

となると、「愛」についてやたら 喋る人間にも、破局が近いということか?

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。


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