閻魔大王が怒る!

菊池寛の作品を 朗読する

 

私が理事を務める「日本ペンクラ ブ」は、毎年、特定の自治体と組む形で、「ふるさと文学」というイベントを開催している。その地の出身者で、文学史に大きな実績を残した有名作家を取り上げ、個人史や作品を再検証しようという企画である。

二〇一八年秋のタイトルは、「菊 池寛の高松」であった。

菊池寛は、一八八八年、高松生まれ。明治大学、早稲田を経て京大へ進み、在学中に書いた戯曲、『屋上の狂人』『父帰る』などは、後に高い評価を受ける。小説でも『恩讐の彼方に』『真珠夫人』などで大ブレーク し、押しも押されもせぬ流行作家となった。作家としての評価だけでなく、プロデューサーとしても能力が高い。文藝春秋社を興し、芥川賞や直木賞を創設し、文壇の地位を高めた。その絶頂期に、軍部の大陸侵略が始り、第二次世界大戦へと戦線が 拡大した。菊池は自由主義者であったが、リアリストでもあったため、あえて体制支持にまわった。これが原因で、戦後は公職追放の体験を味わうことになる。

さて、高松でのイベントは、三部構成で行われた。第一部は、菊池の生涯を、映像とヴァイオリンの即演奏で紹介。第二部が作品の朗読。 第三部は、五人の作家によるパネル・ディスカッション。

私の役割は、朗読の部だった。作品は『閻魔堂』。菊池が二八歳の時に書き、同人誌「新思潮」に発表された。

 

劇中人物として 朗読者を取り込む

 

はっきり言って、小説なのか戯曲なのか、実にあいまい。ディテールが乱暴で、どう読んでも未完成作品。師事していた夏目漱石にも酷評され、菊池は作品を隠してしまった。今回は、それを敢えて紹介した。

物語は、大きな寺の片隅にある閻魔堂の中で展開する。この寺の坊主どもは、トップの和尚から若坊主にいたるまで、酒と女にはまり、腐敗の極致にいる。特に、若坊主達の無法ぶりがひどい。女郎買いの資金を作るため、他の御堂から観音像を盗み出し、巨大木像の閻魔大王の口のへ隠しておく。やがて、若坊主た ちが戻ってきて、口の中へ手を突っ込む。と、閻魔の眼光が燃え、筋肉が盛り上がり、四人を頭から呑み込む。口からはみ出した八本の脚がバタつく。ここだけは凄い迫力!

私が戸惑ったのは、朗読者がどんな立ち位置でこれを読むのかという点だ。単純でグロテスクな勧善懲悪話を、背広姿で棒読みしたのではバカみたいになる。

思案の末、私は僧衣に着替え、丸いサングラスをかけ、怪しい坊さんになりながら登場した。朗読者を、 劇中の人物として取り込んだのだ。

こうして作品の弱点を補い、不条理演劇に仕立て直した。あの世で菊池寛が納得しているかどうか、定かではないが……。

なかむら あつお

元参議院議員、俳優、作 家、脚本家。1940年東京 生まれ。東京外国語大学 在学中に演劇に興味を持 ち、大学を中退、劇団俳優 座に入る。65年にはEWC 奨学生演劇部門試験に合 格、ハワイ大学に留学し、アメリカ社会の研究を する機会を得る。72年に出演したテレビドラマ「木 枯し紋次郎」が空前のブームになりその後数多く のドラマで主演を務める。84年にはテレビ「地球 発22時」でキャスターを務める。現在、日本ペンク ラブ理事、環境委員を務める。著作に『チェンマイ の首』『ジャカルタの目』『マニラの鼻』『ごみを喰 う男』『暴風地帯』『簡素なる国』など。


このコラムの記事一覧

good fellows

Special Feature

Present

WEB限定プレゼント

Category

from Readers

Club