2012年7月1日号より
ホリスティック医学の
確立を目指した「養生塾」
風薫る五月。とりわけ私にとっては初鰹の五月。新たに『帯津良一「場」の養生塾』が二カ所に生まれた。香川県高松市と兵庫県芦屋市である。
『帯津良一「場」の養生塾』(以下、「養生塾」と呼ぶ)の誕生は忘れもしない二〇〇〇年の五月。そうか、これも五月だ。「養生塾」ももう十二年の歳月を刻んだことになるのだ。川越市の街中にあるプリンスホテルで産声をあげたのである。
病院を開いてから十八年。終始ホリスティック医学を追い求めて来て、一つの曲がり角にさしかかっていたことはまちがいない。
がんはからだだけの病ではなく、こころにもいのちにも深くかかわる病であることが少しずつわかって来た。となると、ここはどうしてもホリスティック医学を持って来なければならない。
ホリスティック医学の語源はギリシア語のホロス(HOLOS)。全体を表す言葉である。つまりホリスティック医学とはからだ、こころ、いのちが一体となった人間まるごとを対象とする医学なのだ。人間まるごとだから病というステージにとどまらず、生老病死さらには死後の世界にまで目を配る医学なのである。言うならば医学と養生の統合である。
そこで、「養生塾」である。日々内なるのエネルギーを高めて攻めの養生を果たしていく人を世に送り出すことがホリスティック医学の成就につながると考えたのである。

地球の生命力につながる
私たちの内なる生命力
ところがここで予期していなかったハプニングが起こる。始めてから二ケ月ほどした頃、道場の中がぱっと明るくなったのである。はてと見回しているうちに太極拳を練功する塾生たちの顔立ち、つまり人相がじつに好いのに気がついたのである。
一人ひとりの内なる生命力が高まってあふれているのではないか。日々内なる生命力をあふれ出させる人が増えていけば、地球の生命力の向上に貢献できるのではないか。地球の生命力の低下を内心嘆いていた私である。ここでぱっとひらめいた。そして「養生塾」の目的をホリスティック医学から地球の生命力に転換したのである。
芦屋の会場の前の方に、なつかしいNさんが居ることに話しながら気がついた。Nさんは十年以上前に遠く川越の私の病院に入院していたことがある。まだ病が定まらず、苦闘の日々であった。
あれから幾許(いくばく)の月日が経ったろう。いまこうして私に会うにためにやってきてくれた。講演を終って久闊を叙して握手。温かい手だ。まちがいなく、その生命力があふれている。
高松でも前のほうの席に上品な老婦人。傍らに娘さんとおぼしき若いご婦人。病と共存しながら、私の著書のファンだと言う。今日の日を楽しみに待っていたと言う。
生きていてよかったと思う。このご婦人もNさんもわが生涯における勲章にちがいない。
おびつ りょういち
帯津三敬病院名誉院長。日本ホリスティック医学協会会長。1936年埼玉県生まれ。61年東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長などを経て、82年埼玉県川越市に帯津三敬病院を開設し院長となる。西洋医学だけでなく、中国医学、ホメオパシー、代替医療など様々な療法を駆使してがん診療に立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学の確立を目指している。講演会、養生塾などの開催については、http://www.obitsusankei.or.jp/ をご覧ください。