季を遊ぶ

文=有吉玉青

桜の中の権現様

二百種、三万本の 吉野山の桜

 

 
 吉野には、一度行ってみたかった。吉野の桜を見たい。吉野の山には二百種の桜が三万本あるという。下から下千本、中千本、上千本、奥千本といい、山が下から桜色に染まっていくそうではないか。
 
 けれども行くとなると宿を予約しなければならず、そしてその時期はたいていどこもいっぱいで、さらに桜がいつ見ごろかは誰ぞ知る。早くから宿をとり、とれたはいいが、行ったらまだ咲いていなかった、盛りを過ぎていたというのはよく聞く話。
 
 でも、それが桜の超然とわりきって、昨年四月のはじめに所用で関西に行くことになった折、吉野山に足をのばすことにした四月のはじめは、過去の開花日か らしてどう考えても早かった。それでも思い立ったのは、その時期、吉野山の金峯山寺蔵王堂で、秘仏のご本尊「金剛蔵王権現」三体の特別ご開帳があるからだった。国宝仁王門の修理勧進のためのご開帳だという。

 そこの権現様は青色をしている。 写真でその威容にふれ、前々から拝観したかったのだが、ご開帳の時期を逸していた。

……続きはVol.39をご覧ください。

ありよし たまお

作家。東京生まれ。早稲田大学哲学科、東京大学美学藝術学科卒業。ニューヨーク大学大学院演劇学 科修了。1990年、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さんの恋』『風の牧場』『恋す るフェルメール 37作品への旅』『カムフラージュ』 『美しき一日の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人のこと』など多数の著書がある。

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