夏の計画─森へ、海へ

自然の形に美しい曲線を発見したガレ

 

十九世紀フランスのエミール・ガレ(1846~1904)のガラス工芸には心ひかれてやまない。動植 物が優美な曲線を描くガラスの器は、ただうっとりと眺めていたい、静謐なたたずまいである。

ガレは十九世紀末に流行した、曲線を多用する「アール・ヌーヴォー」のガラス工芸の第一人者だが、自然界のものを曲線にデザイン化したというより、自然の形のうちに美しい曲線を発見したのではないか。草花や鳥、蝶やトンボ、カブトムシやカマキリにも――天才は、人が見慣れて見過ごしていたものの中に美を見いだして、示してくれる。といっても、多くの天才たちの華々しい活躍の裏に地道な努力があったように、ガレもまた動植物の研究に余念がなかった。ダーウィンの進化論の影響が大きかったという。

そんなガレの展覧会〈エミール・ ガレ 自然の蒐集〉展が箱根のポーラ 美術館で開催中だ。この美術館はもともとガレのコレクションを持ち、これまでも見たことがあったが、ガレの展覧会自体は初めてだという。

開催を知ったとき、あらためて箱根でガレを見られることの素敵を思った。美術館は富士箱根伊豆国立公園の中、箱根のまさに森の中。ガレが生命の神秘を感得した森の中で作品を見る素敵。鑑賞の前後には、森を散策しよう、美術館の「森の遊歩道」を歩いてみよう。ガレが愛した花や鳥、虫たちに会いたい。

ガラスの海をたゆたう 美しい海の生き物たち

森に行くなら夏がいい。夏にこの展覧会に行こうと心を決めたが、ガレが描いたのは、森の生き物たちだけではなかった。
 
ガレは海の生き物たちもガラスに表現した。貝やクラゲ、イソギンチャクやタツノオトシゴがガラスの海をたゆたう。十九世紀後半は、ジュール・ヴェルヌの『海底二万 里』が流行し、海洋学も発展した。 晩年、ガレの関心は海へと向かう。

当時から水族館は人気だったが、 昔も今も、水槽を覗き込む人々の中に、どれだけ海の生き物が美しいと思う人がいるのだろう。少なくとも私は、それらをおもしろいと思ったことこそあれ、美しいとは、美しい芸術作品になるとは思ったことがなかった。天才は海のおもしろい生き物たちの中にも美を見いだしたのだ。

ガレが海の生き物たちを描いた作品は箱根で、描かれた生き物たちには、静岡の下田海中水族館で会えるという。森の美術館は、この海の美術館(ガレを見れば、そう言いたくなる)とコラボレーションし、水族館では〈 19 世紀の芸術家エミール・ ガレが愛した海〉展を開催中だ。

夏は森に、そして海にも行かなければ。

*展覧会は、平成30年7月16日まで

ありよし たまお

作家。東京生まれ。早稲田大学哲学科、東京大学美学藝術学科卒業。ニューヨーク大学大学院演劇学 科修了。1990年、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さんの恋』『風の牧場』『恋す るフェルメール 37作品への旅』『カムフラージュ』 『美しき一日の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人のこと』など多数の著書がある。


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