冬のおばあちゃんこ

暖かいのが好き 包まれている感じが好き

 

 この冬は暖冬だそうである。寒いのが苦手なので嬉しい情報だが、冬は冬。文字通りに暖かいというわけにはいかない。例年通り、もこもこと着込むことになるだろう。

 といっても、着込むのは冬に限らない。私はよほど暑い日でもないかぎり、なんとなく重ね着をする。 そして、外に行くときはなんとなくもう一枚、はおるものを持って出かける。なんとなくとしか言えない。 着ないと不安、持っていないと不安なのだ。

 これはひとえに祖母に育てられたゆえのこと。いつも厚着をさせられて、ちょっと寒いとさらに重ねて着せられていたので、自分でもそうしてしまう。着ると脱げない。暖かいのが好き、包まれている感じが好き。

 そんなふうだから、背中のあいたドレス、シースルー、タンクトップ などは着たくても着られず、着たところで上に着てしまうから意味をなさない。寒い冬、コートを脱ぐと中はニットのノースリーブなんてあこがれてしまう――そんなことをいつ も薄着でおしゃれをしている友達に言ったところ、「それはもちろん 寒いけど、おしゃれって耐えることよ」と諭されてしまった。

 でも、耐えているうちに風邪をひいたらもともこもない――そう考えるあたりが、筋金入りのおばあちゃんこなのかもしれない。風邪をひかないようにいつも用心していて、風邪かなと思ったらすぐ飲めるように、風邪薬も持ち歩いている。

 

疲れたとき、寒いとき 甘いものを口に入れる

 

 用心は生活全般におよぶ。過保護に育てられたために、自分は身体が弱いような気になって、これもなんとなくだが自分をいたわってきた。

 そのせいか、「このところ、めっきり体力が落ちた」と言う友人が多い中、体力についてはそれほど衰えを感じずにいる。身体が弱い、体力がないと思って、結果的に体力を温存してきたのだろうか。
 
 実はもともと丈夫だったような気もしてきたが、聞ところでは、「無 をしない」は健康の秘訣だとかうやらそれを知らず知らずに実践してきたようである。こうしてみると、おばあちゃんこは年をとらない のかもしれない。

 ただひとつ、祖母の教えで時代と逆行していることがあって、それは「甘いものを食べる」こと。祖母は、いつも何か甘いものを持っているようにと言っていた。疲れたとき、また寒いとき、口に入れなさい、と。

 いきなり甘いものを食べると血糖値が急上昇して身体によくないというのは、もはや常識だが、私はどうも甘いものを持っていないと不安になる。そしてとりわけ寒い日に口に入れると、身体が温まってくる── 大好きだった祖母の記憶が、口の中からよみがえってくるのだ。

ありよし たまお

作家。東京生まれ。早稲田大学哲学科、東京大学美学藝術学科卒業。ニューヨーク大学大学院演劇学 科修了。1990年、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さんの恋』『風の牧場』『恋す るフェルメール 37作品への旅』『カムフラージュ』 『美しき一日の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人のこと』など多数の著書がある。


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