20.06.26 update

吹っ飛んだ、わがダイナミズム

(WEB版 新・日日是好日) ① 

西洋医学だけでなく東洋医学、ホメオパシー、代替医療まで人間を丸ごととらえる日本のホリスティック医学の提唱者であり第一人者。雑誌¿Como le va?には通算37回の健康エッセイを連載していただいている。今回はコロナ禍の非日常的な騒動の記。

太極拳は、ダイナミズムの源

 新型コロナウイルス騒動のおかげで講演が全部吹っ飛んでしまった。年に100回の講演がしばらく続いたが、ここ2年ほどは年に80回台である。月にすると7回。大体土曜と日曜がほとんど埋まることになる。

 地方に赴くときは、前の晩に都心のホテルに宿泊。早朝4時に起床して入浴後に原稿書き、6時30分になると開いたばかりのレストランに一番乗り。メニューは判で押したように、生ビールとフレッシュオレンジジュース、と目玉焼きの両面焼きを1ケ。生ビールで英気を養い、フレッシュオレンジジュースでビタミンCを補い目玉焼きでコレステロールを補う勘定だ。

 タクシーで東京駅か羽田空港まで行き車中あるいは機中の人となる。昼食は時間的に余裕のあるときは駅や空港のレストランで生ビール付きとなるが、ほとんどの場合、会場でのお弁当だが、昔からお弁当が好きではないので、かならず瓶ビールが付く。

 もともと喋るのが苦手なるが故に医者の道を選んだのであるが、講演は大好きだ。早朝の生ビールで火を点けた英気が一段と高まりを見せて来るのである。さらに、日頃の太極拳のためなのか、あるいは先祖伝来の農民の血の然らしむるところなのか、下半身の衰えを一向に知らないのがありがたい。2時間立ちっぱなしでもさして堪(こた)えない。コロナで吹っ飛ぶ前の2月の最後の講演は90分の講演を続けて2回こなしたものである。

講演こそわが養生法だったが

 帰路は駅や空港のレストランで一人旅情に浸る。時間は40分間。生ビールを2杯、地元の焼酎のロックを2杯飲むと時計を見なくても40分である。来し方行く末に思いを馳せながらわが人生を俯瞰するのである。

 羽田空港と東京駅には病院の初代総師長で現在は退職して自由の身になっているY女史が車で迎えに来て、自宅まで送ってくれる。羽田空港のJ A Lでは中華料理店で、A N Aでは日本料理店で、東京駅では大丸のなかの京料理の店で夕食を摂るのを原則としている。

 どうです。この体、心、命のすべてを巻き込んだダイナミズムは!

 Y女史がいつも、

――講演は先生の養生法です!

 と叱咤激励してくれるのを宜(むべ)なるかなと感じ入っている次第である。

 もう一つは講演料が入らなくなって毎日の晩酌代に事欠くようになり、少しあわてたが、そこはよくしたもので馴染みのお店が次々とお休みになって、なんとなく帳尻が合って来た。また土・日の日中はもっぱら原稿書きに当てているが、心のときめきはともかくダイナミズムでは講演に及ばない。ということで、コロナ騒動の終息を切に願うものである。

おびつ りょういち
帯津三敬病院名誉院長。日 本ホリスティック医学協会名誉会長。1936年埼玉県生まれ。 61年東京大学医学部卒業。 東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長などを経て、82年帯津三敬病院を開設し院長。

新着記事

  • 2025.12.15
    2016年の韓国の造船業界を舞台にした、『ただ、や...

    応募〆切:1月12日

  • 2025.12.15
    NHK紅白に欠かせなかった数々の楽曲— 特集:作詞...

    文=米谷紳之介

  • 2025.12.15
    アンフォルメルの熱い抽象の全貌が明かされる「大西茂...

    応募〆切:1月25日(日)

  • 2025.12.15
    泉屋博古館東京 特別展「生誕151年からの鹿子木...

    応募〆切:1月12日

  • 2025.12.12
    文豪・森鴎外の子どもたちが語る文学者でも陸軍軍医で...

    1月18日~3月31日

  • 2025.12.12
    【冬のお出かけ情報】いつもより長い正月休暇の後半は...

    1月3日~1月12日

  • 2025.12.12
    特別寄稿 役者を生きるために生まれてきた男の12...

    12月13日、93歳の誕生日

  • 2025.12.12
    寺島しのぶ・常盤貴子共演、知的障がいを持つ母と健常...

    応募〆切:12月25日(木)

  • 2025.12.11
    TBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』で熱演の俳優・...

    高橋光臣、ラグビー人気に一役!

  • 2025.12.11
    1960年代チェコスロバキアの民主化運動「プラハの...

    12月12日(金)全国公開

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!