cinema『ギフト 僕がきみに残せるもの』

すべての観客に届けられる
心揺さぶられるメッセージ

文:川口力哉

 

アメリカン・ヒーローを襲ったALSという難病

 

数年前、アイスバケツリレーが世 間で話題となった。アメリカを中心に世界中のセレブがこぞって頭から氷水を被り、次の人へとバトンなら ずバケツを繋いでゆくというものである。国内でも一部盛り上がりを見 せたチャリティイベントであった が、テレビのニュースでも取り上げられたこの活動、真意をきちんと理 解した人はどれくらいいたのだろうか?  かくいう私もそのひとりであった。実はこの運動、ALS ( 筋萎縮性側索硬化症 ) 患者たちを支援するためのものであったのだが、パフォーマンスばかりが取り上げられてまった感が否めない。しかしこの映画と出逢ったことで、バケツリレーの真意を知ると共にALSという病気はもちろん、ALS患者と家 族や仲間たちの現実を通じて、人生において最も大切なことを学ぶに 至った。それは、白旗は揚げない!
というスティーヴ・グリーソンの魂 からのメッセージでもあった。

スティーヴ・グリーソン。1977年生まれ。精悍なマスクに強靭な 肉体、アメリカン人の若者らしくポジティブなハートを持つ、アメリカンドリーム体現者の一人である。ア メリカンフットボールの最高峰NFLの人気スター選手となり、引退し て間もなく、生涯の伴侶となる妻 ミッシェルと出会い結婚、そして妻 の妊娠と順風満帆な船出をはじめた 矢先に突如降りかかったALSとい う難病。全身の筋肉が徐々に衰えていき、数年のうちに歩行や会話、最 後は呼吸すら出来なくなり、平均余命は 2 ~ 5 年と言われている。しか も認知能力は正常でありながら、身体の自由を徐々に侵されてゆくため、患者にとっては拷問にも等しい病ともいえる。そんなおぞましい病宣告を受けた彼だが大きな二つの決断をする。一つは、白旗は揚げな い。彼の場合は、あらゆる最先端医 療を駆使してでもとにかく生き続けると宣言した。二つ目は、これから 生まれて来る子供のために、いつ死ぬとも分からぬ自分の姿や肉声メッセージを残す。そしてまさにこの二 つが土台となって、彼はALS宣告 を受けてからの日々をホームビデオで記録するようになったのである。

生きるということを問われた後に心に響くもの

もし家族がある日、ALSだと告 げられたら、私ならどうするのか?

もしある日、自身がALSだと告 げられたら、私はどうやって生きてゆくのか?

このフィルムに収められた真実の物語は、終始、私たち観客に、生命、家族愛、高度医療に対する倫理観といったものを次々に問いかける。上映中、今まで見た作 10 本分ほどの感動を受け取り、同じく10倍の涙を流した。こんなすごい映画は今まで見たことがない。

グリーソンの背中にはイエスキリストの十字架が彫られている。なぜこんな話を持ち出したかというと、 彼のドキュメンタリーを見ていくうちに、彼の中に神々しい瞬間が芽生えるのを何度も目撃したからに他ならない。

いつしか肉体の自由は奪われ、排せつでさえも自分ではできない。真綿で首を絞めるように降りかかる高額な医療費と家族への負担。一つ越えるたびに立ちはだかるさらに高い山を、一歩一歩、喜怒哀楽のすべてを表現しながら登りゆくその姿は、観る者すべての苦しみを和らげ、勇気を奮い立たせてくれることだろう。今この瞬間に、同じ地球の上でグリーソンが生きていることに思いを馳せながら、今一度この言葉を書き記したい。白旗は揚げない!

©2016 Dear Rivers,LLC

『ギフト 僕がきみに残せるもの』

8月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷 他にて全国順次ロードショー

監督:クレイ・トゥイール
出演:スティーヴ・グリーソン (元NFLニューオリンズ・セインツ)、ミシェル・ヴァリスコ、 エディ・ヴェダー(パール・ジャム)、スコット・フジタ ほか

配給:トランスフォーマー

かわぐち りきや

俳優。1975年和歌山県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。主な出演作は映画『THE GODDESS OF 1967』 (オーストラリア映画)、『李 歐』の主演をはじめ『凶気の 桜』『阿修羅のごとく』『タッチ』『テニスの王子様』 『スマイル 聖夜の奇跡』『龍三と七人の子分たち』、 テレビ「もっと恋セヨ乙女」「危険な関係」「芋たこな んきん」「ヤスコとケンジ」「行列48時間」「ギルティ 悪魔と契約した女」「白虎隊」、舞台『座頭市』など。 著作に小説『ピースマン』がある。現在、世田谷深沢に開校した、小中生を対象とした未来創造スクー ル「GREEN STAR」の代表を務める。

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