Musicサンタナ『ロータスの伝説』

時空を超えて生き残る音楽には強い意志がある

文=立川直樹

 

 
前号の最後にデヴィッド・ギルモア の『ライヴ・アット・ポンペイ』のことを書いたが、CDは勿論のこと約2時間半のコンサート映像を楽しめるブルーレイで見られるドキュメンタリー 『デヴィッド・ギルモア:ワイダー・ホ ライズンズ』は思わず食い入るように見てしまった。
 
コンサートの元になったアルバム『飛翔』の発売直後にBBCで放送されたというドキュメンタリーはアルバム のレコーディングやリハーサルなどを追いながら、 “The Voice and Guitar of PINK FLOYD” と形容されるデヴィッド・ギルモアの人生や音楽を掘り下げるインタビューで構成されたもの。

僕は最初にギルモアのギターを聴いた時から、胸が痛くなるような哀しみと切なさは何からくるものかをずっと考え続け、11月に〝レコード・デビュー50 周年〟に合わせて全15枚のアルバム が〝オリジナル・アルバム・ペーパースリーブ・コレクション〟として発売されたピンク・フロイドを改めて聴き直しその半端ではない時空の超え方とともにギルモアの弾くギターに酔いしれたが、「5歳の時から寄宿舎育ち。ニュー ヨークに行ってグリニッジ・ビレッジ に住んでいた両親から16歳の時にボブ・ディランのレコードとピート・シガーの講習レコードが送られてきた… …」という言葉と、公私にわたるパート ナーであるポリー・サムソンの「彼の感情の核は音楽なのよ。言語発達に問題があるのかも知れない」の言葉を聞いて、ギルモアのギターはもとより彼が作り出す音楽の芯のようなものが見えてきたのである。

そして、そのくらい強い意志を持っ た音楽が時空を超えて生き残るのだと僕は思う。 11 月の半ば過ぎに渋谷で上演された演劇実験室・万有引力の第65 回本公演『Q』はJ・A・シーザーの演出家、音楽家としての才能が本当に稀有なものだと、『身毒丸』『レミング』に 続いて舌を巻かされたが、少人数限定の完全予約制で、公演日以外は一切が シークレットという形で上演された『Q』の中ではシーザーの創る呪術的な魅力にあふれた音楽に加えて、ピンク・ フロイドの「太陽讃歌」が流れ、僕はその瞬間にどこかに連れて行かれる感覚 を味わうことができたのである。

と同時に、シーザーが寺山修司さんがヨーロッパから戻ってきた時にピンク・フロイドの『神秘』を渡され、「こういうのを作ってよ」と言われたという話を思い出し、何もかもがつながっているような気にもなったのである。

そのいい例が原石を見つけ大スター に育てるのはもとより、再生させることでも手腕を発揮するアメリカ音楽界 の伝説とも言えるプロデューサー、クライヴ・デイヴィスの生涯を追いかけたドキュメンタリー・フィルム『ザ ・ サ ウンドトラック・オブ・アワ・ライヴス』 の発売と同時期に、1967年に 35 歳 という若さで米コロムビア・レコード の社長に就任し、CDのオープニングを飾る「心のカケラ」の主役であるジャ ニス・ジョプリンを世に出したデイヴィ スが関わった、ボブ・ディランとサンタナのそれぞれ聴き応えのある重要なアルバムが発表されたのである。

今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロが尊敬する人物としてその名を真先に挙げたボブ・ディラン のものは貴重な未発表素材を調査、発掘し、丁寧で愛情豊かに編集するブー トレッグ・シリーズの第13集『トラブル・ノー・モア』。ディランの長いキャリアの中でも最もファンを驚かせ、物議を醸した時期に作り、演奏された音 楽が紹介されているが、言葉では形容し難いほどのグルーブ感のある「スロー・トレイン」を聴くだけでも価値の あるCDだ。

サンタナは前号で太田和彦さんが書 かれていたレコードの形で発売される 『ロータスの伝説――サンタナ・ライ ブ・イン・ジャパン』。 40 年ぶりに発売されるアナログLP盤は、業界の語り草になっている横尾忠則デザインによる〝 22 面体ジャケット〟が完全に復刻されているし、聴ける音は完全に時空を超えている。話は尽きることがない。

サンタナ『ロータスの伝説』(アナログLP)
SIJP-46~48(3枚組)12,500円+税
発売元:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出版など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー&ディレクター。伊丹十三、篠山紀信、横尾忠則、久石譲、ピエール・バルー、ミック・ロック、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオーケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言(正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。
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