Musicスティルス&コリンズ『エヴリバディ・ノウズ』

アーティストの ポジティブな感覚は 年齢を超える

 

文=立川直樹

 

プロフェッショナルなチャレンジャーからの贈り物

 

朝日新聞の1月25 日付夕刊に載っていた松本白鸚さんの記事の中で、歌舞伎座で松本幸四郎を中心とする屋号〈高麗屋〉の親子孫三代襲名の披露興行を成功させた 名優の言葉にぎゅっと胸をつかまれた。

「確かに役者には若さ、新鮮さ、目をみはるものがないといけない。でも、アマチュアはだめです。プロフェッショナルなチャレンジャー、そしてアルチザン(職 人)であるべきです」

アルチザンという言葉は亡きデヴィッド・ボウイが生前よく口にしていた。そして、〝プロフェッショナルなチャレンジャー〟というのは、音楽は勿論のこと映画や 美術や文学を選ぶ時の基準に間違いなくなっているが、音楽史にその名を刻んでいるスティーヴン・ スティルスとジュディ・コリンズ の共演アルバム『エヴリバディ・ノウズ』と、ジャズ・ギタリスト&ヴォーカリストのジョン・ピザレリが発売50 周年を迎えた大名盤『シナトラ&ジョビン』をカバー した『シナトラ・アンド・ジョビン・アット・フィフティ』の2枚のCDと、ヒュー・ジャックマン が『ラ・ラ・ランド』の製作チームと組んで完成させたミュージカル映画『グレイテスト・ショーマ ン』はエンタテインメントの世界からの早春のうれしい贈り物と断言できる。

 

情報化の波が押し寄せる時代に 一石を投じるアルバム

 

3つの作品に共通しているのは、人間の持つ感覚で物が作られているということ。1967年に出会い、たちまち激しい恋に落ち、スティーヴンに不世出のグルー プ、クロスビー、スティルス&ナッシュのデビュー・アルバムの冒頭を飾っていた名曲「組曲:青い眼のジュディ」を書かせたジュディとスティーヴンが 50 年間という2人が培ってきた特別な歴史を彩ってきた曲を新たなヴァージョンに生き返らせているところが凄い。

タイトル曲は僕が敬愛するレナード・コーエンの作による名曲。 他にもボブ・ディランの「北国の少女」やティム・ハーディンの 「リーズン・トゥ・ビリーブ」といった名曲や、バッファロー・スプリングフィールドの曲など、ある時代を過ごしてきた人にとってはそ れだけでぐっとくる選曲になっているが、伸びやかに寄り添いあう2人の歌声と、それをサポートするミュージシャンたちのシンプルなプレイがそのまま冒頭の言葉につながっていくのである。

そして、このアルバムは作品と商品の見分けがつかなくなってしまい、音楽が情報化の波と闘わなければならなくなってしまった時代に一石を投じているようにも思う。

「私たち2人が作る音楽を聴いた 人たちが思い出すのは、私たちのストーリーであると同時に、彼等 自身のストーリー。昔好きだった人、付き合っていた人のことを一 瞬思い出すの。二重らせんがグルグル回るみたいに、いろんなものがいろんな目的のためにそこから飛び出してくるのよ」というジュディの言葉にも心から納得。ジュディはつい先日も〈ニューヨー ク・タイムズ〉紙に「年齢を感じさせないポップス界のワイルドな天使」と称賛されたが、ポジティブな感覚というのは絶対に年齢を超えることができる。

スティルス&コリンズ 『エヴリバディ・ノウズ』
SICP5681 2,400円+税
発売元:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出版など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー&ディレクター。伊丹十三、篠山紀信、横尾忠則、久石譲、ピエール・バルー、ミック・ロック、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオーケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言(正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。
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