9月26日(水)発売ポール・サイモン『イン・ザ・ブルーライト』

アルバム 『イン・ザ・ブルー・ライト 』における ポール・サイモンの完璧な仕事

 

文=立川直樹

 

過去の曲が、新たな歌として一音一句、心に刻まれる

 

 音楽の世界でも映画の世界でも二 極分化がどんどん進んでいるなと、オープニングの曲「君の天井は僕の床」が1分ほど過ぎた時に僕は、何という素晴しさなのだろうというつぶやきとともに、そのことを思った。

 今までにも幾度か書いたが、収益を上げることに重きをおいて作られる商品と、作り手の気持がこめられた創造性の強い作品との差異。アー ト・ガーファンクルとのコンビ、サイモン&ガーファンクルで60年代の半ばから70年代の初めまで世界中の人々に名曲・名盤で音楽の魅力を教えてくれたポール・サイモンは、ソロとして活動を始めた後も、数々の名盤で一般のファンからうるさ方の人達までを唸らせてきたが、「君の天井は僕の床」で幕が開く9月26日 にリリースされた最新アルバム『イン・ザ・ブルー・ライト』の素晴しさは、もう〝ただならぬもの〟と形容すべき領域に入っている。

 まず驚かされたのが全曲が過去の作品群から選ばれ、それを新たな解釈を加えて録音されたものであるということ。トランペット奏者のウィントン・マルサリス、ギタリストの ビル・フリーゼル、ドラマーのジャック・ディジョネットとスティーヴ・ ガット、ニューヨークを拠点とするチェンバー・アンサンブル・セクス テットのyMusic……といった 錚々たるミュージシャンたちとのコラボレーションにより、音楽のジャンルを完全に取り払って生まれたサウンドとポールの歌で、1973年 の『ひとりごと』から選ばれた「君の天井は僕の床」から、2011年の『ソー・ビューティフル・オア・ ソー・ホワット』から選ばれた「クエスチョンズ・フォー・ジ・エンジェ ルズ」までの10曲が新たな歌として耳に入り、心に一音一句が刻み込まれていく。本当に1曲ごとに驚きの溜息が口をついて出た。滅多にないことだ。

 
完璧に練り上げられたポールの芸術
 

そして、そこにポール自身の言葉 が重なってくる。

「アーティストにとって、滅多にない珍しい機会なんだ。昔の作品を再訪し、再考し、修正し、場合によっては完全に一部をオリジナルと変えてしまえるというのは。幸い、その機会は素晴しいミュージシャンたち との共演というプレゼントまで僕にくれた。ほとんどがレコーディングをするのは初めてのミュージシャンばかりだよ。古い曲が新たに生まれ変わった様をリスナーには聴いてもらえるだろう。生まれ育った家の古い壁が新しいペンキで塗り直されたみたいにね」

実にポールらしい言い方で、60年代以来の盟友ロイ・ハリーと共同プロデュースして作られた新作についてコメントしている。

「ハーモニーの構造を見直し、曖昧 だった歌詞を書き換えることで僕自身、頭の整理ができた。自分は何を言いたかったのか、その当時、何を考えていたのか。そうして、よりわかりやすいものに生まれ変わらせることができたんだ」という言葉もこのアルバムが細部に至るまで完璧に練り上げられたことによって〝芸術〟 に成り得たことを教えてくれる。

9月 22日 には〝ホームワード・バウンド~最後のツアー〟の最終日を迎えたポール。これからはレコード作りのみの活動となるが、このアルバムに収録されている「キャント・ラン・バット」と「犬を連れたルネとジョルジェット」は、ツアーのステー ジでも披露され鳴り止まぬ拍手喝采を浴びたという。

ポール・サイモン 『イン・ザ・ブルーライト』

9月26日発売
SICP31188 2,400円+税
発売元:ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出版など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー&ディレクター。伊丹十三、篠山紀信、横尾忠則、久石譲、ピエール・バルー、ミック・ロック、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオーケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言(正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。


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