music『ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ』

シナトラに〝曲の最高の表現者〟と言わしめたトニー・ベネットの粋と円熟の極み

 

文=立川直樹

 

前号で紹介したフレディ・マーキュ リーという不世出のヴォーカリストがどのようにしてショービジネスの世界に登場したかが浮き彫りにされ、クイーンというバンドの音楽が何故唯一無二のものであるかが解き明かされていく映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、〝第三次クイーン・ブーム〟という言葉で語られるほどの社会現象になり、日本でも興収100億円を超える 大ヒットになった。

そのあおりを食った感じで映画としては『ボヘミアン・ラプソディ』よりもずっとよく出来ている『アリー スター誕生』が大コケしてしまったのは本当に残念だが、歌曲賞を受賞したアカデミー賞の授賞式では「シャロウ」を相手役で監督のブラッドリー・クーパーとピア1台で歌った主演のレディ・ガガはグラミー賞の授賞式でも、バンドをバックにこの稀代の名曲を見事に歌い上げていた。

でも、グラミー賞の授賞式を見ている時、本当に時代が変わったんだなと改めて思った。かつて偉大なるジャズ 歌手エラ・フィッツジェラルドは、亡くなる数年前アメリカのNBCテレビのインタビューで「今の歌手は大変ね。 歌うだけじゃなくて踊らなきゃならないんだから……そして可愛くないとデビューできないんだって……じゃあ アタシなんかレコード出せなかったわね」と話し、インタビュアーを余裕で笑わせていたのを偶然ニューヨークのホテルの部屋で見たことを思い出したが、音楽の価値観とか評価水準が20世紀とは全く違ったものになってしまっている。

グラミー賞授賞式の生中継番組の間に紹介されたストリーミングが67%、 アナログとCDの売り上げが17%、ダウンロード15%という、現物主義者の僕としては驚きの数字。そんな情況の中で改めていい音楽、うまい歌には 何の飾りもいらないと思わせてくれたCDが、グラミー賞の会場にも元気な姿を見せていた御年92歳になる大御所トニー・ベネットと、8作品が全米ジャズ・チャート1位に輝く〝 21 世紀のジャズ・ヴォーカルの女王〟ダイアナ・ク ラールが共演したアルバム「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」だ。

20世紀アメリカが生んだ最高の作曲家ジョージ・ガーシュウィンの生誕120周年を祝し、ビル・チャーラップ(ピアノ)、ピーター・ワシントン (ベース)、ケニー・ワシントン(ドラムス)からなるピアノ・トリオをバッ クに「スワンダフル」から「ア・フォ ギー・デイ」まで現在も歌い継がれるガーシュウィンの名曲の中から厳選された14曲は粋と円熟味の極み。50年代 初頭からずっと第一線で歌い続け、かのフランク・シナトラに「自分でお金を払って聴くのだったら、曲の最高の表現者であるトニー・ベネットがいい。彼の歌を聴いていると、ワクワクしてくる。トニーは作曲者の意図に近づき、その奥にある情感までも歌いきる」と言わしめたトニー・ベネットはこれま でにもkdラングやレディ・ガガなど何人かの歌手とデュエット・アルバムを発表し、スティングや今は亡きエイミー・ワインハウスなど多くの歌手とデュエットの名演を残しているが、この最新作の素晴しさは申し分がなく、極上の音楽に酔うことができる。

そして、極上と言えば、絶対に聴いて欲しいのが『カーペンターズ・ウイズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』。日本盤ボーナス・トラックを加えるとカーペンターズの珠玉の名曲18曲に音楽作りの〝名工〟と言えるリチャード・カーペンター自らが編曲・指揮をして名門オーケストラのサウンドを重ね合わせ、現在に甦らせたもので、デビュー 50周年にふさわしいもの になっている。工芸品の域に達しているCDを聴いている時に、リチャード がつぶやいた「カレンはCDを知らな いで死んだんだ」という言葉がフラッシュバックしてきた。

トニー・ベネット&ダイアナ・クラール
『ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ』

【デラックス・エディション】 SHM-CD+DVD:UCCV-9677 3,564円(税込)
【通常盤】SHM-CD:UCCV-1173 2,808円(税込)
発売元:ユニバーサル ミュージック

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出版など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー&ディレクター。伊丹十三、篠山紀信、横尾忠則、久石譲、ピエール・バルー、ミック・ロック、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオーケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言(正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。


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