stageミュージカル『パリのアメリカ人』

歌、芝居、ダンスの 見事な融合 ウィールドンの振付と演出

 

文=安倍 寧

 

全曲ガーシュウィンで綴る 大人のためのミュージカル

 

 今、劇団四季が上演中のミュージカル『パリのアメリカ人』がベースにしているのは、映画『巴里のアメリカ人』である。両方とも英語のタイトルは『 An American in Paris 』。日本での映画の公開は1952年(昭和27年)。当時は「巴里」という表記が当たり前に通用していたのだろう。オン・タイムでこの映画を見た私のような観客には、ちょっと古風なタイトルとともに、ジーン・ケリー、レスリー・キャロンの素敵なダン ス場面が記憶に焼きついている。

 気がつけば「巴里」から「パリ」へ、およそ半世紀を超える歳月が流れたことになる。けれど、映画、舞台に共通する起伏に富んだストーリー展開と自らの生き方を貫く登場人物たちは、決して色あせていない。

 なんたって音楽がすばらしい。 全曲、ジョージ・ガーシュウィンですからね。ガーシュウィンは、ジャズとクラシック音楽を融合させた最初のアメリカ人作曲家として知られる。そのような大胆な試みが見事結晶している曲のひとつが、交響詩「パリのアメリカ人」である。ミュージカル『パリアメ』が映画『巴里アメ』なしに誕生し得なかったように、『巴里アメ』もまたこの交響詩抜きにしては影も形もなかったろう。この曲はパリが大好きで大好きでたまらなかったガーシュウィンの思いが凝縮しているといわれる。

 

ジャズ、タップ、バレエ 圧倒されるダンス

 

 ガーシュウィンは、オペラ『ポーギーとベス』や「ラプソディ・イン・ブルー」など芸術的な大曲を完成させる一方、レヴュウ、ミュージカル、映画のためにも数え切れないほどの楽曲を書いた。そのことごとくは兄で作詞家のアイラ・ガーシュウィンとの共作である。 いわゆるスタンダード・ナンバーとして不滅の光を放つものも少なくない。今回のミュージカルには「I Got Rhythm 」「The Man I Love 」「But Not for Me 」などそれら名曲が、ふんだんにとり入れられている。

 背景は第2次世界大戦直後のパリである。兵士上がりのふたりの若いアメリカ人(それぞれ画家と作曲家のたまご)とひとりのフランス人(レヴュウ ・ スターを目指す)が、お互いに気づかぬまま、ひとりのバレエ・ダンサーを巡って恋の駈け引きを繰り広げる。無名のアーチストたちの恋ということでは、オペラの『ラ・ボエーム』、それを引き継ぐ『レント』の系列 という見立てもできなくはない。

『パリのアメリカ人』の最大の目玉は、今、世界でもっとも旬のバレエ振付家クリストファー・ウィールドンの振付・演出である。英国ロイヤル・バレエのために創作した『不思議の国のアリス』に見られるように、起伏に富んだ物語をダンスで表現することにかけては、彼の右に出る者はいない。コミカルなセンスも抜群だ。

 去年秋、新国立劇場バレエ団が 『不思議の国のアリス』を上演したときもそうだったが、今回の四季公演でも、長期滞在して特訓を惜しまなかった。

 なおウィールドンは、マイケル・ジャクソンを素材にしたミュー ジカル『Don't Stop 'Til You Get Enough 』(2020年、ブロード ウェイ開幕予定)の振付・演出に携わることが決まっている。ムーンウォークとバレエをどう融合させる?

ミュージカル『パリのアメリカ人』

KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉にて8月11日(日・祝)まで 上演中
作曲:ジョージ・ガーシュウィン/作詞:アイラ・ガーシュウィ ン/脚本:クレイグ・ルーカス/
演出・振付:クリストファー・ ウィールドン(OBE 大英帝国勲章)/
ミュージカルスコア・編 曲&スーパーバイザー:ロブ・フィッシャー/
装置・衣裳デザイ ン:ボブ・クローリー

料金(税込):S席11,800円、A席8,640円、サイドA席8,640 円、B席6,480円、サイドB席6,480円、C席3,240円、サイド C席3,240円、サイドイス付立見席3,240円(「四季の会」会員 S席10,800円)

〔住〕横浜市中区山下町281
〔問〕劇団四季 予約センター0120-489444(10:00~18:00)
※9月1日(日)名古屋四季劇場にて名古屋公演が開幕
撮影:荒井健

あべ やすし

音楽評論家。1933年生まれ。慶應義塾大学4年生のときに日本のポピュラー音楽、レビューについて新聞・雑誌に寄稿を始め、60~90年代は、日本レコード大賞審査委員・実行委員、東京音楽祭国内・国際両部門審査委員を務める。65~66年のシーズン以来、ブロードウェイ、ウエスト・エンドの主要作品のほとんどすべてを観劇している。80~00年代にかけ劇団四季取締役として『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ライオンキング』などの日本公演の企画・交渉に携わる。『ショウ・ビジネスに恋して』『ミュージカルにI LOVE YOU』『喝采がきこえてくる』などの著書がある。


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