cinema『12か月の未来図』

教育問題をユーモアをまぶして描く痺れるフランス映画

 

文:川口力哉

 

教師の立場として心を釘付けにされる

 

 世田谷深沢で学習塾を始めてもうすぐ3年になる。開校する前、コーチングとアクティブラーニングを学び、知識と理論で頭がパンパンの状態のままいざ開校してみたら、集まった生徒は5名だった。 されど5名。机上では尤もらしく思えたコーチング理論に基づいた声掛けも、現実、目の前の生徒には全く効き目なし。むしろ現場では、「おかしいな。コーチング理論に基づくと、この場面、クライアントである君はコーチにこう答えるシナリオになってるんだけどな」とネタ明かしをした方が、よほどお互いの気心が知れていい関 係になる事を学んだ(笑)。

 また思春期真っ只中の中学生男子などは、日によって全くの別人? と思えるくらい、気分や態 度の落差が大きく、時に反抗的な言動に出る。なるほど、あの時、教師に殴られた時の自分の態度ってこういう事だったんだと、 今、教師の立場として知る次第である。かくして、数十名の子供たちが教室にやって来ては、ある者 は残り、ある者は去り、わが教室は3年目の春を迎えようとしている。そんな折、出会うべくして出会った作品とも言える『12 か月の未来図』と題された、このフランス映画に心が釘付けとなった。

 

教育の真実を描く制作者の執念

 

 映画は、パリの名門エリート高校から、突然パリ郊外の教育困難中学に派遣された教師フランソワと、移民など様々なルーツを持つ低学力問題児たちとの格闘と成長を描いている。

 あまりにも子供たちの芝居がリアルなので、監督の演出力が凄いなと思っていたら、それもそのはず。監督はリアルな教育現場を描くために2年間中学校に通い続け、実に500名の生徒と学校生活をおくりながら、生徒役の生徒たちをキャスティングし、また生徒それぞれの実情に合わせて脚本を書いたという。その執念こそが、ドキュメンタリーに勝るとも劣らない教育の真実をまさしくリアルに浮き彫りにしている。

 さてここで、今まさに、本作中 に一名の問題児が登場する。やる気はない、口答えだけは一人前、そして学校にドラッグを持ち込み、パーティを開く。遠足ではベルサイユ宮殿でトラブルを起こし、いよいよ退学処分の厳命が。 ある教師は言う。「彼一人のために、周りが迷惑するんだ。学校をやめてもらおう」。だが主人公フランソワは言う。「私たちが彼を救ってやらねば誰が彼を守るというのか」。あなたならどう考える?

 そしてこの選択の結末こそが、エンディングのワンシーンにすべて反映されている。エリート教師と問題児。偶然という運命でしか決して巡り合うことのない二人の醸し出す空気感、距離感、間、そしてセリフ。やっぱりフランス映画痺れるわ。

©ATELIER DE PRODUCTION-SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA-2017

『12か月の未来図』

 

監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル

出演:ドゥニ・ポダリデス、レア・ドリュッケール

4月6日(土)より岩波ホール他全国ロードショー

配給:アルバトロス・フィルム

かわぐち りきや

俳優。1975年和歌山県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。主な出演作は映画『THE GODDESS OF 1967』(オーストラリア映画)、『李歐』の主演をはじめ『凶気の桜』『阿修羅のごとく』『タッチ』『テニスの王子様』 『スマイル 聖夜の奇跡』『龍三と七人の子分たち』、 テレビ「もっと恋セヨ乙女」「危険な関係」「芋たこなんきん」「ヤスコとケンジ」「行列48時間」「ギルティ 悪魔と契約した女」「白虎隊」、舞台『座頭市』など。 著作に小説『ピースマン』がある。現在、世田谷深沢に開校した、小中生を対象とした未来創造スクール「GREEN STAR」の代表を務める。


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