stageミュージカル『王様と私』

一級品のミュージカルに仕上げた渡辺謙&ケリー

 

文=安倍 寧

 

物語と音楽とダンスの完璧なからみ合い

 

 ロンドンからの来演カンパニーなのに渡辺謙が主役のシャム(現在のタイ)王を務めるのは、日本の観客へのサービス? そう思う人がいたらとんでもない間違いだ。渡辺は、2015年、ブロードウェイでリヴァイヴァル上演されたとき以来のオリジナル・キャストなのだから。

『王様と私』の王様役というとユル・ブリンナーがよく知られている。1951年の初演時から持ち役だったし、映画(1956)でも当たり役となった。つるつるの禿頭と炯々たる眼光は確かに一度目にしたら忘れられない。一方、古い価値観に囚われた頑迷固陋な性格が強調され過ぎていたのも気になった。あまりにも西洋人から見た対アジア人観むき出しの王様像だったからだ。  

 バートレット・シャー新演出による今回の『王様と私』で渡辺謙 が求められた使命は、ブリンナーが築き上げたシャム王像をいかにぶち壊し再構築するかに掛かっていたのではないか。その成果は是非舞台で(特に王の苦悩が滲み出る「パズルメント」が聴き逃せない)。

『王様と私』は、オスカー・ハマースタインⅡ(脚本・作詞)、リチャード・ロジャース(作曲)の手になる。『オクラホマ!』(43)『回転木馬』(45)『南太平洋』(47)、そして教科書にも載っている「ドレミの歌」で知られる『サウンド・ オブ・ミュージック』(59)など、 すべてこの名コンビが世に送り出した。

  どの作品もミュージカルの三 要素、物語と音楽とダンスがこれ以上ない完璧さで見事にからみ合っている。プラス、時代と国境を超えて訴え掛けてくる鮮烈な主 題も内に秘めている。『王様と私』なら異文化間の対立と相互理解といったような。

 

親しみやすく風格が漂うミュージカル・ナンバー

 

  ロジャース=ハマースタインⅡ 作品は、『王様と私』に限らず常にブロードウェイで人気が高い。 去年『回転木馬』、ことし『オクラホマ!』が上演されている。もちろん気鋭の新演出で。そしてそのたびに復活を遂げる。このコンビの作品には永遠の生命が宿っているとしか思えない。

  彼等の名作、ヒット作には、舞台を見たことのない人たちでさえ知っている有名なナンバーがひしめき合っている。『王様と私』から生まれた曲だけでも「I Whistle a Happy Tune」「Hello Young Lovers」「Getting to Know You 」「Shall We Dance?」 エトセトラ……。

  いずれも親しみやすく、かつ一種の風格が漂う。劇場を出ながら 口ずさみたくなるような曲ばかりが並ぶ。
 
 ハイライトは渡辺謙、ケリー・オハラが歌い踊る「Shall We Dance? 」を措いてない。このナンバーに至って私たちは、『王様と私』が比類なきロマンス劇だと気づくことだろう。
 
渡辺シャム王の相手役、気位高いイギリス人教師アンナを演じる ケリー・オハラは、今が旬のブロードウェイ女優である。優美なロジャースの旋律に込められた微妙な女心を歌わせたら、まさに天 下一品。渡辺との呼吸も奇跡に近いほどよく合っている。

 ミュージカルの舞台が一級品に 仕上がるかどうかは主役のキャスティング次第といわれる。今回の『王様と私』ほどこの真実を端的に証明してくれる作品はそうざらにはあるまい。

Photo by Matthew Murphy The London Palladium Production

リンカーン・センターシアタープロダクション ミュージカル

『王様と私』

 

東急シアターオーブにて7月11日(木)~8月4日(日)
出演:渡辺謙、ケリー・オハラ、イギリスカンパニー
脚本・作詞:オスカー・ハマースタインⅡ
曲:リチャード・ ロジャース
演出:バートレット・シャー

料金(税込):SS席19,000円、S席15,000円、A席12,000 円、B席9,000円、U25 6,500円
※生演奏、英語上演(日本語字幕あり) ※未就学児入場不可

〔住〕渋谷区渋谷2-21-1渋谷ヒカリエ11F
〔問〕Bunkamura03-3477-3244

 

あべ やすし

音楽評論家。1933年生まれ。慶應義塾大学4年生のときに日本のポピュラー音楽、レビューについて新聞・雑誌に寄稿を始め、60~90年代は、日本レコード大賞審査委員・実行委員、東京音楽祭国内・国際両部門審査委員を務める。65~66年のシーズン以来、ブロードウェイ、ウエスト・エンドの主要作品のほとんどすべてを観劇している。80~00年代にかけ劇団四季取締役として『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ライオンキング』などの日本公演の企画・交渉に携わる。『ショウ・ビジネスに恋して』『ミュージカルにI LOVE YOU』『喝采がきこえてくる』などの著書がある。


good fellows

おすすめ美術展

Special Feature

Present

WEB限定プレゼント

Category

from Readers

Club