cinema『ガリーボーイ』

ラップを通して 格差社会、差別からの 脱却を描くインド 映画

 

文:川口力哉

 

ラップに心の叫びを綴り 社会の現実に挑む

 

   かつてエミネムの『8マイル』を見て、内からこみ上げるような熱い感動とちょっぴりの勇気をもらった記憶から、試写状に記載の あった、「インド映画」「スラム」「ヒップホップ」という3つのキーワードを目にしただけで、もうこれは間違いなく面白い映画になりそうだという予感を持って劇場へと向かった。

   主人公の〝ガリーボーイ〟ことムラドは、大都市ムンバイにある最大のスラム街に暮らす大学生である。ちなみにガリーとは、路地 裏という意味だそうだ。スラム街在住の若者が普通に大学生?と、 一瞬訝しんでみたが、現代インドでも猫も杓子も大卒というのが一般的になりつつあるようで、ムラドの父親も雇われ運転手で稼いだ 収入の多くを息子に注いでいる。 また厳しい格差社会は旧態依然と変わらないようで、結婚や就職といった人生を大きく左右する節目において、生まれながらにして決められた身分が大きく物を言う社会、まさに不条理な世の中である。でもこの不条理こそが、ヒッ プホップのガソリンにもなりうる 大事なファクターでもある。
 
   スラム育ちの低カースト、ガー ルフレンドは良家の娘だが、だからこそ結婚は許されず、貧しいがゆえに金欲しさに車を窃盗するな どという悪事に手を染めてしまう。大体こういう場合において、人はまず現状に諦め、次に環境のせいにして自分の行動を正当化して波に流されていくものだが、ムラドは違う。ヒップホップと出合ったことで、自分自身と激しく対峙し、その不条理な境遇をラップにのせて歌い上げ、その境遇か ら抜け出そうとする強い反骨心を魂の叫びに変えてみせたのだ。
 

社会問題を炙り出す心に刺さる歌詞

 

   撮影は、実際のスラム街にあるごみ収集所にセットを建てて敢行したそうだが、スラム街、高層ビルの夜景、都市の雑踏、大富豪の パーティなど、シーンごとに移り変わる現代インド社会の街並みは バラエティに富んで見ごたえたっぷりである。また本作の登場人物たちも、若い嫁を貰う一方で本妻 に暴力をふるう堅物の父親、浮気を疑うとすぐに相手の女性のもとへと乗り込んで凄むガールフレンド、子供にまでドラッグの密売を 手伝わせる悪友など、一癖も二癖もある強烈なキャラクターが随所で見せ場を作りながら、インドが抱える今の社会問題をきっちりと 炙り出している。

   インドでは上映後、ヒップホップが本格的な音楽シーンへと急成長しているそうだが、まさにこの映画によって1970年代に ニューヨーク・サウスブロンクスで産声をあげたヒップホップは50年の歳月を経て、インドにまでたどり着いたといえよう。
 
   さて劇場を出る頃には、すっかり感動の涙も渇き、何だかとてもすっきりとした気分になった。果たして冒頭の予感は見事的中だっ たわけである。上映時間は154分。秋の夜長にぴったりなヒップホップ映画を要チェック!

『ガリーボーイ』

 

監督:ゾーヤー・アクタル
出演:ランヴィール・シ ン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルヴェー ディー、カルキ・ケクラン

10月18日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ツイン

かわぐち りきや

俳優。1975年和歌山県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。主な出演作は映画『THE GODDESS OF 1967』(オーストラリア映画)、『李歐』の主演をはじめ『凶気の桜』『阿修羅のごとく』『タッチ』『テニスの王子様』 『スマイル 聖夜の奇跡』『龍三と七人の子分たち』、 テレビ「もっと恋セヨ乙女」「危険な関係」「芋たこなんきん」「ヤスコとケンジ」「行列48時間」「ギルティ 悪魔と契約した女」「白虎隊」、舞台『座頭市』など。 著作に小説『ピースマン』がある。現在、世田谷深沢に開校した、小中生を対象とした未来創造スクール「GREEN STAR」の代表を務める。


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