musicマドンナ『マダムX』

ジャンルも国籍も時代も超えた クリエイティブな マドンナの新作アルバム

 

文=立川直樹

 

 立川のシネマシティ・シネマ・ツーで『ディレクターズカット ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間』の極上音響上映が、実際に50年前にフェスが開催された最終日の8月17日にあり、ダイノジと大谷ノブ彦さんとトークショーもやったが、その帰りの電車の中でピーター・フォンダ死去の報を目にした。
 
 何だか呼ばれているような偶然を感じた。公民権運動やベトナム反戦運動でアメリカ社会が大きなうねりを見せていた1969年の夏は、ウッドストック・フェスティバルに40万人とも50万人とも言われる若者が集まり、ロックが社会的大事件としてとらえられたが、ピーター・フォンダが一足先に天国に旅立ったデニス・ホッパーと一緒に作った『イージー・ライダー』も同時期の産物であり、既存の価値観に異を唱えるカウンター・カルチャーのアイコンになった。映画とロックが初めて完璧なコラボレーションをした革命的な作品でもあった。
 
 イギリスでは7月にデヴィッド・ボウイが『2001年宇宙の旅』に触発された名曲「スペイス・オディティ」も発表している。8月16日にイギリス政府がボウイが
50年前に野外コンサートを行ったロンドンのステージを歴史的に重要な建物に当たる「登録建造物」に指定するという発表をしたのも、1969年という年がいかに凄い年であったかを示している。

 これからもビートルズの『アビー・ロード』の記念盤も発売されるし、ローリング・ストーンズの『レット・イット・ブリード』も69年の産物だ。三沢の寺山修司記念館では〈寺山修司の1969~アジテーションの時代~〉という特別企画展も10月14日まで開催されている。
 
 これでこのまま1969年のことを書いていったらノスタルジックな旅のようになってしまうので、かつての名盤・名作も素晴しいものが山ほどあるが、新作にも凄いものがあるぞという感じで、69年にはまだ11歳の少女だったマドンナの4年ぶり14枚目の新スタジオ・アルバム『マダムX』を紹介しておきたい。

 その仕上がりは超強力。マイケル・ジャクソン、プリンスという天才と同じ1958年に生まれ、3人の中では一番デビューが遅いものの、常に世間に幅広く話題を提供し、騒がせてきたマドンナ。
 
 6月14日に世界同時発売された『マダムX』のビデオ・メッセージで「マダムXはアイデンティティを変えながら世界中を旅し、自由のために闘い、暗黒の世界に光をともすことを使命としたスパイ。マダムXは愛の館に住み、時にはインストラクター、教授、国家元首、家政婦、騎手、囚人、学生、母、子供、教師、修道女、歌手、娼婦に偽装するスパイなの……」と、寺山修司が書きそうなコメントを口にしている。やはり中々のセンスだ。
 
 コロンビアのレゲトン・シーンの大物、25歳のマルーマをフィーチャーした「メデジン」からジャンヌ・ダルクについて触れ、〝イッツ・ア・ビューティフル・ライフ〟という言葉が繰り返し象徴的に使われる「ダーク・バレエ」……社会性の強いメッセージが耳に突き刺さってくる「キラーズ・フー・アー・パーティーイング」……とアルバムが進んでいくうちに、僕は何度も息をのみ、マドンナはいつの間にこんなクオリティの高い音楽を作るようになっていたのかと驚きと感動に包まれていったのである。

 養子で次男のデヴィッド・バンダがプロ育成のサッカー・スクールに入学したため、2年前からポルトガルの首都リスボンに住んでいるというマドンナは「リスボンのリビングルーム・セッションで聴いたようなギターが入った音楽をやりたいと思った」と語っているが、20代の若手たちと創り上げた音楽は、限りなくクリエイティブで、ジャンルも国籍も時代も超えている。1969年だったら、もっとたくさんの記事が出ていただろうと思う。

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マドンナ 『マダムX』

UICS-1352
2,500 円+税
発売元:ユニバーサル ミュージック

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出版など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー&ディレクター。伊丹十三、篠山紀信、横尾忠則、久石譲、ピエール・バルー、ミック・ロック、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオーケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言(正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。
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