musicアルバム『シネマティック』

映画と音楽の素敵な関係

 

文=立川直樹

 

  2月12日にブルーノート東京で観たカイル・イーストウッドのライヴは掛け値なしに超A級だった。アメリカを代表する俳優で映画監督のクリント・イースト ウッドを父に持ち、子供の頃から映画と父の影響でジャズの世界に親しんだカイルの存在は前々から気になっていたが、2年ぶりの来日公演は全編映画音楽のみで構成された最新作『シネマティック』 のお披露目でもあった。

  ステージ中央でウッドベースを弾くカイルをサポートする4人のミュージシャンの抜群のテクニックとセンス。カイルが作曲に関わった『グラン・トリノ』の テーマ曲から「僕達がオリジナルから最も大きく変化させた曲だ。バンドが自由に羽を伸ばせる曲をアルバムに入れたいと思ってね。アデルの曲をマイナー・ブ ルースに転じて、速いテンポで突っ走ったんだ」とコメントしている『007』シリーズの主題歌「スカイフォール」に 「タクシー・ドライバーのテーマ」や「風 のささやき」etc。パリを拠点にして いることと関係しているかも知れないが、そのスタイリッシュさとクールな感じがフレンチ・ジャズのテイストで、それがまた僕をしびれさせてくれたが、アンコールで演奏され、万雷の拍手が贈ら れた「ピンク・パンサーのテーマ」のコ メントを聞くと、カイルのただならぬセ ンスがよくわかる。「『ピンク・パンサー』 は主旋律を4分の7拍子に変えてみたんだ。このリズムであのキャッチーなメロディを演奏するのは実に楽しかったよ」

  この自由な発想と、それを実現できる テクニックと才能。まるで映画の一場面のようにも見える格好の良いステージングからもカイルが映画と音楽の世界をうまく行き来していることがよくわかったが、偶然にも『シネマティック』という同じタイトルのアルバムを発表したロビー・ロバートソンも同じ種族の人だ。

  ロビーが在籍したザ・バンドの1976年の解散コンサート『ラスト・ワルツ』 の映画化に協力を依頼したのがきっかけで始まったマーティン・スコセッシ監督とのつきあいで、1980年の『レイジ ング・ブル』から昨年秋に公開された最新作の『アイリッシュマン』まで数多くの作品に関わってきたロビーの8年ぶり、6枚目になる最新作『シネマティック』も実に不思議な魅力を持っている。

  天辰保文さんの書いたライナーノーツによれば、ロビーはこの新作の制作と並行して2016年に出版された自叙伝 『ザ・バンドの青春』を基にしたドキュメンタリー映画の仕事と『アイリッシュマン』の仕事も同時進行していたということだが「隣り合ういっぽうが他方に滲み出て、いろんなことが混じりあうようになった。そこに道が見えてきた。曲のアイデアが渦巻き、古い記憶、暴力、美しいもの、そういったものを歌にしたいというアイデアが映画のように浮かんではひとつになっていった。そして、音の後を追ううち、自然と形ができ始めた」という言葉はそのまま『ラスト・ワ ルツ』でも圧巻のステージを見せていたヴァン・モリソンとロビーがデュエットしているオープニング・ナンバーの「アイ・ヒア・ユー・ペイント・ハウス」から、ビル・ゲイツとともにマイクロソフト社を立ち上げ、2年前にがんで他界したポール・アレンのために書き下ろした「リメンバランス」まで秀逸の13 曲が並ぶ新作の雰囲気を言い当てている。

  そしてドキュメンタリーと言えば、映画と音楽の関係ということで永遠の伝説と言ってもいい『死刑台のエレベーター』で歴史を作ったマイルス・デイビスの新たなドキュメンタリー映画『マイルス・デイビス:バース・オブ・クール』に基づいて制作されたアルバム『ミュージック・フロム・アンド・インスパイアド・ バイ』が絶対に見逃せない1枚だ。
 
 ハービー・ハンコックやウェイン・ ショーター、カルロス・サンタナ、ジャズ界の伝説的プロデューサー、ジョージ・ウェインから元妻フランシスや息子エリン・デイビスなどの証言をはさみ、時代を追った選曲でマイルスの音楽的変化をレーベルを超えて楽しめるのが最高で、ラストのトラック28ではマイルスの未発表スタジオ・テイクとレニー・ホワイトの書き下ろし曲を組み合わせた〝新録音〟も聴ける。だからレコードは素敵だ。

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2月12日、ブルーノート東京のステージで演奏するカイル・イーストウッド。アルバム『シネマティック』もキングインターナショナルから発売中。KKE-102 2,750円(税込) Photo by Yuka Yamaji
写真提供:ブルーノート・ジャパン

たちかわ なおき

音楽、映画、舞台、美術、出版など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー&ディレクター。伊丹十三、篠山紀信、横尾忠則、久石譲、ピエール・バルー、ミック・ロック、和田誠、鋤田正義など各界のアーティストの映画音楽から展覧会までプロデュースを手がける。ジャンルをかけ合わせるメディア・ミックスやロックとオーケストラのコラボレーションなどでは独自の手法で高い評価を得ている。著書に『シャングリラの予言(正・続)』(森永博志氏との共著)、『セルジュ・ゲンスブールとの一週間』『父から子へ伝える名ロック100』『TOKYO1969』など多数の著書がある。
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