stage『ドリームガールズ』

ブラック・ミュージックの聖地 アポロシアター版復活公演

 

文=安倍 寧

 

アメリカ社会と黒人音楽との関係

 

  劇中の黒人女性トリオ、ドリーメッツの背後には、おのずと実在したシュープリームスが透けて見える。ディーナはダイアナ・ロスだ。時代は1960~70年代。このミュージカルを通して、当時のアメリカ社会でブラック・ミュージックがどのような位置にあったか知ることができる。

  トリオの人気が今ひとつなのに焦ったマネジャー、カーティスが、リズム・アンド・ブルースから白人好みのポップスへ大きく舵を切るくだりなど、その一例だろう。その煽りを喰らって歌は抜群だがルックスが今ひとつのエフィーが、グループから追い出されてしまう。

  実際のシュープリームスにも同じ事態が起こっている。ずば抜けた歌唱力のフローレンス・バラードから見目麗しきダイアナ・ロスへ首のすげ替えがおこなわれたのだ。

  『ドリームガールズ』ブロードウェイ初演は1981年12月である。ほぼ4年、1522回のロングラン記録を残している。60年代から叫ばれていた〝ブラック・イズ・ビューティフル〟という掛け声が、ようやく社会的に認知されるようになったのは、80年代に入ってからだと思う。このミュージカルのヒットと時代の風潮は決して無関係ではない。

  そして更に時代は大きく変わった。ラップを含むブラック・ミュージックが、今、世界のポピュラー音楽界の主流を占めている。改めてこのミュージカルを見れば、私たちは過去60年に及ぶ時代、社会、黒人音楽の抜き差しならぬ関係に思いを馳せずにいられないだろう。
 

R&Bサウンド風のミュージカル・ナンバーの宝庫

 

  初演版の振付・演出は、あの『コーラスライン』のマイケル・ベネットである。バックステージでの人間的葛藤を主題にしていることでは両作品とも同じ系列に属する。それとベネットと並んで振付にマイケル・ピータースがクレジットされていることも記憶にとどめたい。そう、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を振り付けした、あのマイケル・ピータースですよ。

  今回、来日するのは、2009年、ニューヨークはハーレムのアポロシアターで上演されたリヴァイヴァル版(演出ロバート・ロングボトム)である。アポロシアターは、黒人街として有名なハーレムに1860年代から存在する由緒ある劇場だけに、ブラック・アーティストたちとの縁が深い。ビリー・ホリデイ、デューク・エリントンらそうそうたるジャズ音楽家が舞台に立ってきた。ブラック・ミュージカルにこれ以上ふさわしい場所はないだろう。実はこのミュージカルには、冒頭、この劇場が登場する場面がある。

  『ドリームガールズ』は、心浮き立つ曲、情緒てんめんたる曲と、ミュージカル・ナンバーの宝庫である。とりわけ「And I Am Telling You I'm Not Going」の熱量は大したものだ。次々とリズム・アンド・ブルース風サウンドが鳴り響くので、作曲者ヘンリー・クリーガーが白人だと知ると意外な感じがしないでもない。

  余談ひとつ。一時期、井上ひさしがこのクリーガーと宮本武蔵のミュージカル化を構想していたと聞く。上演された『ムサシ』(演出蜷川幸雄)とは別のヴァージョンも見てみたかった。R&B調の「巌流島の決闘」なんていう曲が生まれていたかも。

ブロードウェイ・ミュージカル
『ドリームガールズ』

東急シアターオーブにて2020年1月29日(水)~2月16日(日)

脚本・作詞:トム・アイエン/音楽:ヘンリー・クリーガー 構想・オリジナル版演出・振付:マイケル・ベネット
演出・振付:ロバート・ロングボトム/出演:カディージャ・オネ、シャラエ・モールトリー、ベランド・ミラス
料金:S席14,000 円、A席12,000 円、B席10,000 円(税込)
生演奏、英語上演(日本語字幕あり)、未就学児入場不可

〔住〕渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ11F
〔問〕Bunkamura03-3477-3244(10:00~19:00) Photo Tsuyoshi Toya

あべ やすし

音楽評論家。1933年生まれ。慶應義塾大学4年生のときに日本のポピュラー音楽、レビューについて新聞・雑誌に寄稿を始め、60~90年代は、日本レコード大賞審査委員・実行委員、東京音楽祭国内・国際両部門審査委員を務める。65~66年のシーズン以来、ブロードウェイ、ウエスト・エンドの主要作品のほとんどすべてを観劇している。80~00年代にかけ劇団四季取締役として『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ライオンキング』などの日本公演の企画・交渉に携わる。『ショウ・ビジネスに恋して』『ミュージカルにI LOVE YOU』『喝采がきこえてくる』などの著書がある。


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