4月9日(金)ロードショー『ドリームランド』
古い映画ファンなら、1967年に製作された『俺たちに明日はない』(原題『BONNIE AND CLYDE(ボニー・アンド・クライド)』)がよみがえることだろう。わが身を振り返れば燎原の火のごとく広がっていた学園闘争を他人事のように横目にしていた典型的なノンポリ。日々麻雀に明け暮れて、まさに「俺たちに明日はない」と自虐的な鬱屈した不良学生だった。そのさなか、アメリカからとんでもない銀行強盗をヒーローにした映画がやって来たのだ。1930年代のテキサスを舞台にクライド(ウォーレン・ベイティ)とボニー(フェイ・ダナウェイ)の男と女がグルとなり、後になって仲間も加わって銀行強盗を繰り返す犯罪映画だ。
最後は身体中に銃弾を受ける二人の死に方を観ながら、全共闘連中に向かって「反体制を気取るならこのくらいのこと(覚悟)をしろよ」と快哉した憶えがある。ダーティーヒーローの痛快極まりない実話をもとにした刺激的な映画だった。1968年暮、東京府中に起きた3億円強奪事件の犯人を、その度胸や手際の良さにボニーとクライドになぞらえて想起したものだった。
さて、本作は銀行強盗の末、銃弾を受けた女(マーゴット・ロビー)が息絶え絶えで荒れ地の廃墟同然の納屋に逃げ隠れていたことからドラマが始まる。そこにイノセンス残る17歳の、人生に鬱屈している少年が出くわし、まさに「ドリームランド(夢見る場所)」への二人の逃避行に展開してゆく。ドレスアップしたお洒落なボニーとクライドとは似つかわしくないが、少なくともフェイ・ダナウェイの美貌とふてぶてしさと、指名手配の逃亡者マーゴット・ロビーの儚い美しさが交錯して、女の愛の悲しい〝強さ〟に涙するのは年寄りの悪い癖なのか。

それにしても1930年代の砂塵にまみれるテキサスという舞台、日常的に起きる銃撃戦、いやが上にも『俺たちに明日はない』がよみがえる。そして、鬱屈した日々から脱出しドリームランドを夢見る少年の心に、かつて人生の方途を彷徨っていたわが身を重ねてみたくなるのも許されたい。「イノセンス?(無垢、無邪気)、冗談じゃない。俺たちには、もう、明日(寿命)がない!」と叫びながら。(文・次郎長)

4月9日(金) 新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:ハピネット