吉永小百合主演『いのちの停車場』に思う“人の最期の輝き方”


©2021『いのちの停車場』製作委員会
©2021『いのちの停車場』製作委員会
©2021『いのちの停車場』製作委員会

「この作品は真っ直ぐに、真っ直ぐな気持ちで観てください!」と舞台挨拶で西田敏行は声を大にした。西田は在宅医療、末期医療といった重いテーマだけに、先入観を入れず、観たまま観るままに〝生きる〟ことの大切さ、切なさ、愛おしさを素直な目で見て欲しいと訴えたのだ。

 救命救急センターで救命医として働く白石咲和子(吉永小百合)は、ある事件をきっかけに金沢に帰郷、在宅医療「まほろば診療所」に転職し、往診に明け暮れることになる。

 そこで出会うのは、肺癌を患う芸者(小池栄子)、脳出血後在宅で治療をつづける胃瘻患者の妻(松金よね子)と介護に疲れた夫(泉谷しげる)、交通事故で脊髄損傷し四肢麻痺を患い車椅子のIT企業の社長(伊勢谷友介)、5年前に癌を克服したが転移が発見された女流囲碁棋士(石田ゆり子)、末期の膵臓癌に蝕まれた元高級官僚(柳葉敏郎)、小児癌の8歳の少女(佐々木みゆ)と絶望感に打ちひしがれる母親(南野陽子)と父親(笠兼三)、そして老いさらばえてゆく父(田中泯)……。

 いずれも医療への不信、在宅医療への疑問を持ちながら患者とその家族は、「まほろば診療所」の三代目院長(西田敏行)、咲和子と看護士(広瀬すず)、運転者兼庶務係(松坂桃李)らの献身的な在宅医療と介護に心を開いてゆく、七つの「いのち」の物語である。舞台となった北陸・金沢の四季の映像美が、人の死と生という重いテーマを和らげながら展開してゆく。

©2021『いのちの停車場』製作委員会

 公開前の東京国際フォーラムCホール、華やかな舞台挨拶のある完成披露試写会のはずだが、観客はもちろん多くのメディアたちがいつもの晴れやかな空気とは異質なものを感じていたにちがいない。本作の製作総指揮を執った東映会長、岡田裕介がクランクアップ間もなく逝去したことが、この日のすべての参加者の脳裏にあったからである。突然に、あまりにも突然に訪れた「死」、わずか5カ月前(2020年11月18日)のことである。ポスターの鉛筆画のイラストレーションを自ら依頼するほど、意気込みが伝わっていたのだ。

「出ているシーンは少ないが、撮影中ずっとそばにいてくれたんだ。仲良しだった岡田会長の応援ために今日はこの舞台挨拶にやってきた」と泉谷しげるが神妙に言った。この日のすべての出演者と監督・成島出も同じ気持ちでステージに立っていたことだろう。

 在宅医療患者の日々の長い時間と思い、看取る家族・残された家族との時間、「いのち」をよりあたたかいものにしようとする在宅医とスタッフの献身、「臨終」を告げる悲しみ……涙が涸れるほどのシーンの連続だが、「停車場」が近づいたとき、人はどんな生き方ができるのか、私の中で自問自答がつづく。「自分の命は、せめて自分で決める」と痛みに耐える闘病を自ら絶とうとする咲和子の父、悩んだ末治療と介護に終止符を打とうとする医師であり娘である咲和子、葛藤がつづく中で父娘が迎える日の出はあまりにまぶしく輝いていた。

 人の最期の輝きを照らし出そうとする本作が、皮肉にも岡田自身が最期に遺した輝きになろうとは! かつてある映画を一緒に世に送り出した、同い年の岡田裕介という映画プロデューサーの死をあらためて悼みながら、わが身の「いのちの終い方」を思わずにはいられない。(記・次郎長)


2021年5月21日(金)ロードショー  配給:東映

PR

サントリー美術館様

特集 special feature 

「花椿」の贈り物

「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

久世光彦のテレビ

久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

ウイスキーという郷愁

ウイスキーという郷愁

いつか「ダルマ」が飲める大人になってやる

昭和は遠くなりにけり

昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

川喜多長政 &かしこ映画の青春

川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

Present

information

new ホテルにいながら世界の街へ! 小田急 ホテルセンチュリーサザンタワーの食で味わう海外旅行

ホテルにいながら世界の街へ! ...

小田急ホテルセンチュリーサザンタワーの提案

new 森美術館 「アナザーエナジー展」 

森美術館 「アナザーエナジー展...

挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人

箱根海賊船『Sunset  Cruise』運航!

箱根海賊船『Sunset C...

初夏の夜の箱根時間を堪能する

世界初!新型コロナ対策の寝具誕生

世界初!新型コロナ対策の寝具誕...

マニフレックスで安心の熟睡

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives

私にとっての箱根 archives

私にとっての箱根 archives

小田急沿線さんぽ archives

読者の声

コモレバクラブ

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial